第19話 二人の決意
「――っ!」
はっと息を呑む。俄かには信じられなかった。
(ジャックが? 私を――?)
それでも彼の目は真剣で、とても嘘をついているようには見えない。
彼も私と同じ気持ちだった。それがわかっただけで心の霧が晴れたようだった。うれしさのあまり目に涙まで滲んできた。
「……私も、あなたのことが、ずっと好きでした」
堪えきれず雫を一粒こぼしたとき。
彼がもう一度、私を抱きしめた。
彼の腕の力はとても強かったけれど、それがまたうれしくて、私は何も言わず彼の体を抱きしめ返した。
彼の腕の中はとても暖かくて、でもまだこういうことには慣れていないので、私の心臓の鼓動は音が聞こえてきそうなくらい激しくなってしまう。
そのとき、まだ太陽を覆っていた雲がさっと晴れ、私たちを眩しい光が照らした。辺りを見回すと、海の上に大きな七色の橋が架かっているのを見つけた。
「綺麗……」
「本当だ」
まるで想いが通じ合った私たちを祝福してくれているような、そんな虹だった。
けれどそこで私は不安に駆られた。彼の背中にまわしていた腕を離すと、彼も私の体を優しく離した。
「でも、どうするの? あなたの婚約者はそのうち決められてしまうし、そもそも私の身分ではあなたの結婚相手としては認められないんじゃ……?」
国王夫妻や家臣の決定は並大抵のことでは覆せないだろう。そうなれば、いくら私たちが同じ気持ちでも結局結ばれることは叶わない。
それに、彼の話ですっかり忘れていたけれど――
「そういえば私も、実は縁談を持ちかけられていて……」
そして私はヘンリーが私と無理やり結婚しようとしていることと、彼との間で起きた出来事を全部話した。
(私、どうしたらいいんだろう……)
こんな事情を抱えていても彼が私を受け入れてくれるのか、それだけがただただ心配だった。
全て聞き終わった彼は目を閉じ、しばらく何かを考えてからよし、と呟いた。
「えっと、ジャック――」
「二人で一緒にこの国から出よう」
「――へっ!?」
(国を、出る!?)
まさか彼の口からそんなアイディアが飛び出してくるとは思わなくて、変な声が出てしまった。
「そんなこと、できるんですか? 私はいいとしても、あなたはこの国の王子なのに……」
「良くないのはわかっている。でも、こうするしかないでしょ? それに、俺には弟がいるから。あいつになら、この国を任せられると俺は思ってるから――」
そうすれば君も、嫌な人から逃げられるでしょ? と彼は少しだけ悪戯っぽく片目を瞑った。
普通はあり得ない話なのに、彼と一緒ならなぜか何でもできそうな気がしてしまった。
彼は私の両肩に手を乗せ、私の顔を覗き込んだ。
「隣の国まで行って、静かに暮らせる小さな街を探そう。それで、そこで俺と結婚してほしい」
真剣な表情に戻った彼を見て、不安はまだ残っているけれど、迷いはもう消えてしまった。
(ジャックとならきっと、大丈夫──)
二人で幸せになるんだ、私はと覚悟を決めた。
「はい……私を、あなたのお嫁さんにしてください」
私の返事を聞いて、彼の顔が薔薇の花びらのように綻ぶ。
そのまま彼は私に顔を近づけ──唇と唇がそっと触れ合った。
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