第7話 彼と私の誕生日1

 それから私たちは毎週同じ時間に会い、いろいろなことを話した。そこで私は、ジャックの好きな食べ物は甘いお菓子で、嫌いな食べ物はセロリだということ、犬より猫が好きで、家で小さな黒猫を飼っていることなどを知った。意外と共通点が多くて、私も! と言うと彼はいつも優しく笑ってくれた。

 そして六月になり、たまたま誕生日の話になったのでジャックの誕生日を尋ねると、今月の十四日に十九歳になったことを聞いた。今日は十七日なので、今年の彼の誕生日は三日前に終わってしまっていることになる。当日にお祝いできなかったことを知り残念に思っていると、彼に私の誕生日を聞かれた。


「私は六月二十四日なの」


「そうなの?」


 彼は驚いた顔をしていた。もともと二重でぱっちりしていた目がさらに大きくなる。


「ちょうど十日違いだね。……っていうか、ちょうど一週間後だね」


 言われてみると確かに私たちの誕生日はかなり近かった。


(誕生日がこんなに近いなんて、運命?……いや、ただの偶然よね)


 一人でかぶりを振っていると不思議そうな表情をされたので、何でもないのとごまかした。


「じゃあ来週がちょうど二十四日だから、お互いにお祝いしない?」


「っ!」


 彼の思いがけない提案に、私は多分目を輝かせていたと思う。


「それいいね!」


 それなら特別なお菓子を作らなきゃ、と意気込んでいると、そんな私を見て彼はふっと笑った。


「な、何……?」


「いや、楽しそうだなと思って」


 体育座りをしたまま隣の私に優しい目で笑いかける彼の顔が大人っぽくて、心臓がとくんと音を立てる。

 思えば彼には会うたびにドキドキさせられている気がする。初めて会ったときからそう。


(でも、嫌じゃないんだよね……)

 はあ、とため息をついたら彼が笑顔のまま首をかしげたので私は勢いよく立ち上がった。


「何でもないの!……私、今日は家のお手伝いをしないといけないから、早めに帰らなきゃ」


 すると彼もわかった、と言って立ち上がる。


「お手伝い頑張ってね」


「ありがとう。来週楽しみにしててね」


「わかった。楽しみにしてる」


 私たちはじゃあね、と言い合っていつもの木陰をあとにした。




 それから私は約束の日が待ち遠しくてずっとそわそわしていた。勉強や習い事のときもずっとそのことばかり考えてしまっていてあまり集中できなかった。前日の火曜日にはいつものように材料を買いに行き、その日の夜にお菓子を作った。毎週クッキーやスコーンのようなちょっとしたお菓子を作って二人で食べていたけれど、明日は二人の誕生日パーティーを兼ねているのでケーキにしようと決めていた。

 オーブンでふわふわしたスポンジケーキを焼き上げクリームと苺で飾りつけをしていると、母がキッチンに来た。


「すごく気合いが入っているわね。どうかしたの?」


 ジャックのことを言うのはまだ恥ずかしくて、私はとっさに嘘をついた。


「そんなことないわ。アリスと一緒に食べるの」


「そう……それにしてもすごく上手にできているわね」


「本当に?」


 どうしても彼に食べてもらうお菓子を作るときは張り切ってしまうみたいだ。


「あら、顔が赤いみたいだけど大丈夫? 熱でもあるの?」


 彼のことを考えていたのが表に出ていたようで、私は慌てて否定した。


「大丈夫よ。オーブンの近くにいて暑かっただけ」


「なるほどね。火傷には気をつけるのよ」


「はい」


 娘が本当は同じ年頃の男性に手作りのケーキを渡すことを知ったら、お母様はどう思うんだろう。ていうか、実は気づいてたりするのかな……。

 そんなことを考えながらキッチンから出ていく母を見送り、ケーキのデコレーションを再開した。

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