第2話 仮面舞踏会1
仮面舞踏会の会場は、お城の一階にある広々としたダンスフロアだった。
「やっぱりお城ってすごく広いのね……」
実はアリスも国王のお城は外から見たことがあるだけで、中に入ったのは初めてらしい。
ダンスフロアの三つの壁に沿って料理が乗ったテーブルと椅子があり、テーブルたちに囲まれた広いスペースでダンスをするようになっているようだ。残りの一つの壁には弦楽器を持った演奏者たちが集まり、ゆったりとしたワルツを演奏している。二人がフロアに入ったときには既に正装した男女がたくさん集まっていた。
「やっぱりみなさん仮面をつけていらっしゃるのね」
つい思ったことを口に出して、隣にいるアリスを見るとくすくす笑っていた。
「そうよ。だって仮面舞踏会だもの」
私たちは少しお腹がすいていたので、まずは飲み物をもらって料理が置いてあるテーブルについた。
しばらくダンスをしている人々を眺めながら軽く食事をとっていると、アリスの視線がある一点で止まっていることに気がついた。
「どうかしたの? あっちに何かあるの——」
「あのお方、仮面をつけていてもかっこいいのがわかるわ……せっかくだから声をかけてみましょう!」
「えっ、ちょ、ちょっと、アリス——」
『私がずっと一緒にいるから』と約束したはずのアリスは、遠くに魅力的な殿方を見つけたようで、私を残して足早に去って行ってしまった。私は途方に暮れてしばらくそこに座っていたが、ちょうどお腹を満たせた頃合いだったのでフロアの端の方に移動した。
早く戻ってこないかしら、とアリスを待っていたが、そんな私に近づいてきたのは仮面をつけたどこの誰かもわからないような男性たち。何度かダンスに誘われたけれど、疲れてしまったので、などと理由をつけて全て断った。
(やっぱりこういうのは慣れていないわ……)
やはりアリスの家のような伯爵家とうちのような男爵家では、社交の場に誘われる頻度が違うので、私にはあまり舞踏会などに参加した経験がない。それに、単にこの会場に人が多いうえにもともと人見知りなので気疲れしてしまっていて、疲れているので踊れない、というのはあながち嘘でもなかった。
(アリスも戻って来なさそうだし、どうせ踊れないのならいったん外に出ましょう……)
そう思って私はダンスフロアから直接中庭に出た。
「わあ、綺麗……」
思わずそう声に出してしまったのは、私の視界の一面に色とりどりの薔薇の花が咲いていたからだ。ここまで見事な薔薇園は見たことがなくて、しばしの間足を止めてその場に佇んだ。それから少し進んでみると薔薇の木に囲まれた道が見えた。どうやらちょっとした迷路のようになっているみたいだ。
薔薇の花が大好きな私は周りを見回しながら、その迷路の中心に引き寄せられるように道を進んでいった。
しばらく進むと不意に視界が開け、薔薇に囲まれた広めのスペースが表れた。中央には白いテーブルと椅子を備えた小さな庵のようなものがあり——その椅子の一つに一人の青年が座っていた。
夜風になびく美しい金髪。黒っぽいドレススーツを着こなしすらりとした脚を組んで座っている。整った顔はどこか憂いを帯びた表情を浮かべている——。
私はつい見惚れてしまい、それから我に返った。
(この方に気づかれると気まずいし、邪魔をしても悪いから早く戻らなきゃ……)
しかし体の向きを変えるより一瞬早く、その青年が私に気づいてしまった。
仮面の奥の深い緑色の瞳と目が合って、私の心臓が小さく跳ねた。
「かわいいお姫様。そこで何をしているの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます