太陽と青い向日葵(旧 Eternel Lovers)

海月陽菜

第一章 出会いと二人の甘い日々

第1話 親友の企み

「ねえ、アリス——」


「ん? なあに?」


「なあに? じゃなくて、そろそろ教えてよ。私たちどこに向かっているの? 今から何をするの?」


「だから、着くまで秘密だって」


 幼いころからの親友であるアリス・キャロルが意地悪な笑みを浮かべてそう答える。

 私、シャーロット・エヴァンズはため息をついた。


「急に私を家に呼んだかと思えば、いきなりかわいいドレスを着せて馬車に乗せるなんて、いったい何を企んでいるの?」


 そう、私はなぜかアリスにドレスを着せられていた。昨夜急に、『明日の16時に家に来てほしい』という連絡があり、行ってみると有無を言わさず深い青色のドレスに着替えさせられたのだ。生地と同じ青色の薔薇があしらわれていて、スカートの部分がふんわりと広がったこの素敵なドレスは、聞けばアリスが私のために選んでくれたものらしい。長い栗色の髪はハーフアップにされ、ここにも青い薔薇の髪飾りをつけてもらった。こんな格好は正直したことがないので正直戸惑っている。


(こんなかわいい格好、私には似合わないわ……)


「まあまあ、きっとシャーロットも楽しめると思うわよ?」


「……本当かしら」




 それから1時間ほどたったところでやっと馬車が止まった。窓の外を見ると、四月の終わり頃なので完全には暗くなっていないけれど、少しずつ夜の帳が下りてきているようだ。


「んー、やっと着いた」


 しばらく座っていて固まった体をほぐすようにアリスが両腕を伸ばした。


「さあ、降りましょう!」


 扉が開き、日中よりは少し冷えた空気が入ってくる。アリスの家の御者に手伝ってもらい、アリスに続いて馬車から降りた私は目の前に広がる光景に絶句した。


「な、なにこれ——お城?」


 眼前にそびえ立つのは巨大な白いお城だった。ここまで大きな建物は見たことがなかったのでただただ圧倒されてしまう。見上げると首が痛くなるほど高いし、横にも長くて視界に収まりきらない。そして振り返ると広大な敷地に芝生が広がっており、その真ん中には私たちが通ってきたと思われる道が遠くまで延びていた。


「あら、知らなかったの? ここは国王のお城よ。」


「国王って、ロゼリア国王の!?」


 なんでアリスはいつも肝心なことを前もって教えてくれないのかしら。そう思ってからはっと気づいた。


「国王のお城なんて……私のようなただの男爵家の娘が来ていい場所ではないはずよ? どうして私を連れて来たの?」


 私とアリスが住むこのロゼリアという国には貴族の階級制度があり、私の父であるオリヴァー・エヴァンズは一番下の男爵にあたる。一方アリスの父親は上から三番目の爵位である伯爵にあたり、キャロル伯爵と呼ばれている。

 親同士の爵位が違うこの二人がなぜここまで親しいかというと、父親同士が昔から仲が良く家を近くに建てた上に、私とアリスが生まれた時期もほぼ同じだったので、家族ぐるみの付き合いがあったからだ。私たちは通っていた学校も一緒だったので、十六歳になった今や本当に何でも話せる大事な親友だ。


(でも、まさか、国王のお城なんて。伯爵家の娘であるアリスならまだ大丈夫かもしれないけれど、一介の男爵家の娘である私が気軽に訪れていい場所ではないわ……)


 そう思っていたけれど、アリスはそんなことなど関係ないとでも言うように首を振った。


「大丈夫よ。今夜ここで開かれるのは仮面舞踏会だもの!」


「仮面……舞踏会?」


 不思議に思って尋ねると、アリスはあら、と首を傾げた。


「シャーロットはまだ参加したことがなかったかしら。仮面舞踏会っていうのはね、その名の通り仮面をつけて楽しむ舞踏会なの。お互いに素性は聞かないっていうルールがあるから、身分なんて気にしなくていいのよ!」


 そう言ってアリスは私に、青地に金色の飾りが入った仮面を手渡した。


「へえ……」


 世の中にはそんな催し物もあるということを初めて知った。確かに顔が隠れているなら少し安心だけれど、それでも自分が入っていい世界なのかがわからない。

 どうやら私は不安げな表情をしていたようで、それに気づいたアリスが私を勇気づけようとしてくれた。


「私がずっと一緒にいるから大丈夫。こんな機会めったにないから楽しもう?」


「……そうね、ありがとう」


 アリスの言葉で少し気が楽になったように感じる。十六年間生きてくるとそれなりにいろいろあったけれど、アリスはいつもこんな風に私を元気づけてくれていた。


「ところで仮面も青なのね」


 ドレスも髪飾りも青なのに、と思ってくすりと笑ってしまった。


「だって、シャーロットは青が一番好きじゃない。青色の瞳にもよく似合っているし。——ちなみに私のは色違いよ」


 アリスが手にしていたのは赤地に金色の飾りの仮面だった。アリスが来ている濃いピンク色のドレスや綺麗なブロンドの髪によく似合っている。


「さあ、もうすぐ始まるわよ。私たちも行きましょう!」


 アリスが元気よくそう言って仮面をつけたので私もそれに倣い、二人で荘厳な玄関ロビーへと向かった。

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