Ⅴ 葬送の朝(2)

 だが、葬儀は無事に終わっても事態はそれで終わることなく、エルマーナ・ベルディの死が修道院内の空気をさらに最悪なものへと変化させた……。


「――メデイアよ! あの魔女が悪魔を使ってベルティに復讐したんだわ!」


「なんて恐ろしい……いくら反省部屋に押し込めたって、このままじゃわたし達もみんな……」


「もう許せない! 裁判なんて待つ必要ありませんわ! わたくし達の手で神の裁きを与えましょう!」


 修道院に戻り、また遅めの昼食を供された後のこと、食堂を出たハーソンとアウグストは、そんな修道女達の騒ぐ声を聞いた。


「火炙りよ! あの魔女を火炙りにすべきだわ!」


「そうよ! 火炙りですわ!」


 先程の悲しみと淋しさだけに彩られた葬儀の時とは一変、彼女達は過激な言葉を平然と口にし、院内は怒りの声一色に染められている。


「なんとも嫌な雰囲気だな……」


「ええ。似ておりますな。〝魔女狩り〟の時の空気に……」


 その、今にもメデイアに対して私刑リンチが行われてもおかしくはない状況に、ハーソンとアウグストは彼女らを諌めてくれるよう、グランシア院長のもとへ相談に行ったのであるが……。


「――わたくしが間違っておりました。ベルティが天に召されたのはわたくしの甘さゆえのことです……これ以上の犠牲者を出さないためにも、ここは厳罰を以て魔女を早々に裁かねばなりません」


 右腕であったベルティを失った悲しみはわからんでもないが、これまで半信半疑であった彼女までが態度を改め、メデイアの即時処刑に賛同の意を表している。


「し、しかし、まだ裁判で有罪判決も受けていないというのにそれは……せめて正式な魔女裁判で判決がくだされるまでお待ちになっては……」


「いいえ。すでに悪魔と取り交わした契約書という動かぬ証拠も出ています。判決を待つまでもないでしょう。それに、仲間達をここまで凌辱されて怒る修道女達を最早、抑えておくことはできません」


 微笑み一つない、冷酷な表情で静かな怒りを内に秘めたグランシア院長に、あくまで冷静な対応をアウグストは促すが、まるで聞く耳持たずである。


「わかりました。では、我々が彼女達の説得を試みてみましょう。それまで、しばしお時間をいただけないでしょうか?」


 すると、予想外なことにもやけにあっさりとハーソンは引き下がり、そんな提案を鉄面皮のグランシア院長に持ちかける。


「……ハァ…仕方ありません。今日の夕刻まで待つことにいたしましょう。ま、預言皇庁から派遣されたあなた達にも立場があります。無駄だとは思いますが、やれるだけおやりになってみてください」


 その提案に、彼の背後に控える権威を思い出したのか、院長は大きな溜息を吐くととりあえずの妥協案を提示してくれる。


「ありがとうございます。それでは早速に……いくぞ、アウグスト」


「は、はあ……」


 それにもハーソンはすんなり折れるとくるりと踵を返し、颯爽とマントを翻してアウグストとともに院長室を後にしていった――。


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