Ⅴ 葬送の朝 (1)

 翌日は、朝早くから亡くなったベルティの葬儀に関わる諸行事が修道院を上げて執り行われた。


 修道女達が一堂に会する礼拝所内で、血に塗れた体を綺麗に拭われ、不気味に強張っていた表情も美しく整えられたベルティの遺体を前に、〝死者の安息を願う祈り〟が神に捧げられ、その後、中庭で摘んだ美しい赤い薔薇とともに彼女を入れた急ごしらえの柩が、それを担ぐ長い葬列によって修道院裏にある墓地へと運ばれて行った。


 どこまでも澄んだ青空の下、目に眩しい緑の草原の上を、黒い蟻のような修道女達の群が一列に連なって進んでゆく……その草むらのあちらこちらには古く朽ちたものからまだ新しいものまで、〝神の眼差し〟を模った墓石が古代遺跡の残骸のように点々と立っている。


 ここは長い歴史を積み重ね、この修道院で生涯を全うした代々の修道女達が眠る場所なのだ。


 その中にはまだその墓石すらなく、細い白木の柱だけが立てられているものもあり、それが先頃、悪魔憑きの犠牲になった修道女のものであることに、葬儀に列席したハーソンとアウグストも後になって気づいた。


 特に真新しい、そんな木の標柱の根元に掘られた長方形の穴の中に、ベルティを納めた木の棺がゆっくりと降ろされてゆく……女の手だけで大変な重労働だろうとも思ったが、そんな常識に反し、最近は頻繁に行っている・・・・・・・・ためなのか、妙に手慣れたものであった。


 一人一人、柩の上へスコップで土をかけてゆく厳かな時の流れるその場に、修道女達のすすり泣く声が淋しく響き渡る……。


 だが、すすり泣くくらいならば、まだ平常に戻ったということだろう……昨夜、ベルティが自害して果てた後、半狂乱に泣き叫ぶ目撃者達にハーソンは事の顛末を問い質した。


 恐慌状態に陥った彼女達の話はひどく要領を得ないものだったが、全員の話を繋ぎ合わせてなんとかわかったところによると、どうやら昨夜、悪魔憑きになった彼女が神を冒涜する言葉を喚き立てながら修道院内を巡り、最後に中庭へ到るとあのような最期を迎えたようである。


 それは、これまでのメデイアが遭遇した五人の場合とは少々趣が異なっている……最初のエルマーナ・アンナの場合は他の者も騒ぎに気づいて駆けつけたが、基本的には勘の良いメデイアだけが偶然発見したことで終わっている。


 だが、今回はなぜか、まるでわざと多くの者に目撃されるようにして……。


 また、今回はやはり院長の指示で凶器の鎌が焼却処分にされそうだったところ、寸前でこっそりハーソン達は回収することができた。


 赤黒く変色した血がべっとりと刃に付いている以外にはほんとになんの変哲もないただの農作業用の鎌であるが、メデイアが言っていた通り、確かにその柄には二重の円の中に長方形や小さな丸を描いた図形が刻印されている。


 魔術の知識に乏しいハーソンには特定までできないが、おそらくは各々の悪魔に対応した特別な印象――〝シジル〟とみて間違いないであろう。


 なぜ、真の犯人はこのような鎌をわざわざ使って、修道女達の命を奪うのだろうか? それはやはり、このシジルに対応する悪魔と何か関係しているのだろうか?


「ああ、エルマーナ・ベルティ……なんと哀れななんでしょう……この修道院と我々の信仰を守るため、その短い生涯を傾けてくれた彼女の魂が救われるよう、もう一度、皆で祈りを捧げましょう」


 少々不謹慎にも弔いの気持ちそっちのけで、密かにハーソンがそんな疑問を心の内に抱いている中、彼女の棺はすっかり土の下に埋められ、最後にグランシア院長の言葉で魂の安息を願う祈りが改めて捧げられた後、エルマーナ・ベルティの葬儀は静々と、滞りなく終了した――。


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