Ⅳ 魔女の真実(3)

「――これは……」


 時を置かずしてハーソンが中庭に駆けつけると、そこには数名の修道女が距離をとって周囲を取り巻く中、真っ赤な薔薇の花壇の前に豹変したベルティが立っていた。


 その吊り上がった眼は真っ赤に血走り、不気味に顔の筋肉を引き攣らせて口からはだらしなく涎を堪え流し、手にはあの赤い薔薇一輪と、やはり一本の農作業用の鎌を握っている。


 明らかに、昼間見た彼女とはまったくの別人だ。


「ガハハハハハ…祈祷所ニ続キ、今度ハコノ修道院ノ名トモナッテイル庭ヲコノ娘ノ血デ穢シテヤル。コレデコノ神ノ家モ、最早、我ラガ魔王サタンノ家ダ……」


「いかん…!」


 彼女のものとはまるで違う、しわがれた男の声で語るベルティの姿をした・・・・・・・・・者に、次に起こることを察して咄嗟に駆け寄ろうとするハーソンだったが、その瞬間……。


「……きゃ、キャアァァァァぁぁぁーっ!」


 鎌で掻き斬られたベルティの首から吹き上がる、花壇の薔薇のように真っ赤な大量の鮮血とともに、その場を目の当たりにしてしまった修道女達の気が狂わんばかりの悲鳴が響き渡る。


「くっ……間に合わなかったか……」


 数瞬の後、辺り一面に文字通りの血の雨を降らし、吹き出せるだけ吹き出し終えると空っぽになって崩れ落ちる彼女の亡骸を見つめながら、ハーソンは悔しそうにギリギリと奥歯を強く噛み締めた――。

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