20.3

 今日は薬草の仕入れ先に訪問した。元は観賞用の花を育てていた農園だが、父が当主となる前に起きた戦争によって需要が減り、今は薬草を中心に栽培している。

 戦争については伝え聞く程度の知識しかないが、五十年続いたというそれは国や町、人々を疲弊させるには十分過ぎただろうことは容易に想像できる。俺の住む町は戦地から離れていたらしく影響は少なく見えるが、戦火の只中にあった地では未だ復興が続いているという。そういった場所には、出来る限り迅速に薬を届けたい。


 父が一代でホフマン家を大きくできたのも、戦争で怪我人が多かったことが手伝ったのだろうと思う。戦争自体を肯定する気は全くないが、やはり医薬品の需要は伸びるものだ。一方で、今日訪れた農園のように転向せざるを得ない、もしかしたら縮小だったり業務そのものを畳むことを余儀なくされた家もあるだろう。俺自身は戦争を知らない世代にあたるが、復興に貢献できるのならしない理由はない。俺達の未来、ひいては子供のより良い未来に繋がる筈だ。

 戦前を知らない俺が言うのもおかしな話かもしれないが、早く元に戻るといいと思う。農園にも、美しい花を育てる環境が整うことを祈る。そうなったら、ヤンへの贈り物として、とびきり綺麗な花束を頼みたい。

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