13.3

 俺の人生で最も大きいのは、やはりヤンの存在だろう。ヤンがいたからこそ人を真に愛することを知ったし、自分も愛することができるようになった。


 ヤンと出会った日は、今でも忘れない。13年前の10月27日。エドとダグと遊んだ帰り、たまたま通った路地裏に座り込んでいた。あの時のヤンは、当時の俺が初めて見るほどの大怪我をして、意識も朦朧としていた。そんな中俺の問い掛けに応えてくれたのが嬉しくて、絶対に助けると決意した。歩けるようになるまでに半月かかったが、それでもヤンは生き延びてくれた。もしも帰る場所がないのならと使用人として働くことを提案したが、今考えるとあの時から離れがたく感じていたのだろう。以前母に聞いたが、ヤンはこの先も俺と共にいてくれるのだろうと直感したという。

 それから、結果的にヤンと二人で旅をした。最初こそ強引についてきたものの、ヤンがいなかったら無事に帰ってこられなかっただろう。そして、ヤンの提案により体を重ねるようになった。この時はまだ自分よりもっとヤンを幸せにしてくれる人がいる筈だと思いながら、ヤンを縛りヤンに縋っていた。ヤンに対しての酷い仕打ちのひとつだ。離れたくないと口にすることもなく、離れる選択肢を奪った。しかも、無自覚に、だ。

 旅の途中で俺が倒れて、ヤンが寝ずの看病をした結果今度はヤンが倒れて。そしてようやく、俺は行動を起こした。ヤンから離れるという、最悪の選択を。


 俺は昔から、自分がかけがえのない存在であるという感覚が薄かった。だから、追いかけてきたヤンに、お前の未来に俺は必要ないと、俺は要らないと、言ってしまった。それを否定するヤンの泣き顔も、死ぬまで忘れない。


 俺は俺自身の手でヤンを泣かせた。だからこそ、俺自身の手でヤンを幸せにするんだ。

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