10.3

 今日のヤンは朝から落ち着かない様子だったから、使用人達に頼んで一日の休みを貰った。俺としては午前中の書類作業、俺のサインが要らないものだけ任せられたらと考えていたのだが、テオドールに半ば無理矢理仕事部屋を追い出された。やり方は不器用だが、気遣いが嬉しい。


 話を聞くと、期待と不安がない混ぜになって、どうしていいか分からなくなったらしい。隣に座って肩を抱き、しばらく話をした。この時期は、精神的に不安になることもあると聞く。そういう知識はあるしまだまだ学ぶ気持ちもあるが、代わってはやれないのが心苦しい。

 ヤンが苦しむ度に、俺がそれを引き受けてやれたらと思う。性別がある以上それも不可能ではあるのだが、先日母が来た時にもっと話を聞いておくべきだったと後悔する。

 ただ、俺にはそうして弱音を吐いてくれるのも、嬉しくもあり有難いことだ。隠されるより、伝えてくれた方がずっと良い。全てを知りたいとは決して思わないが、背負える荷物なら共に背負いたい。ヤンが俺を支えてくれたように、俺もヤンの支えになりたい。

 家での仕事以外は予定が何もない日だったから、出来得る限りでヤンのそばにいた。珍しくあいつから手を繋いできたりもしたから、相当に不安だったのだろう。それを察することが出来なかった自分を省みる。同時に、もしかしたら少しの吐露を切っ掛けに、積み重なった不安が溢れたのかもしれないとも思う。


 ヤンには、不安になった時は俺が何をしていてもいつでも呼んで欲しいと伝えた。俺も出来る限りヤンのために時間を作る。ヤンのそばにいる。それだけが俺に出来ることであり、それは俺にしか出来ないことだ。

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