6.3
今日は、取引先として長年付き合いのある家の茶会に呼ばれた。親交を深めるのも立派な仕事だ。それは理解しているが、やはり緊張はあるし、俺はこういった仕事が得意な方ではない。
元々俺は、親しみやすい人間ではないと思っている。昔、エドとダグが友達になってくれるまでは学校でもほぼ一人で過ごしていたし、二人とつるむようになってからも、ある程度までは話せても二人以上に親しくできる人間が居なかった。それを思えば、今の俺はとても恵まれているのだろう。美しい妻、気の置けない友人、優しく心強い使用人達。彼らがいるからこそ、いかに苦手な仕事であっても頑張ろうと思える。もうすぐ会える家族にも、感謝しかない。
もうすぐ、と言うのはまだ気が早いか。医者は、会えるのは暖かくなった頃だと言っていた。まだ少し雪が残っているし、朝晩は特に冷え込む。寒さが落ち着いた時期なら、きっと子供にとっても過ごしやすいだろう。今の俺の楽しみは、子供と一緒に昼寝をすることだ。
生まれてから育つまで、人間という生物の成長過程で言えば、ある程度は理解している。しかし、父親になったという実感は、恥ずかしい話だが未だ無い。ヤンの変化も分かっているというのに、俺は何もできないでいる。せいぜいヤンに昼寝の時間をやったり、出来るだけ共に過ごせるように仕事を早く終わらせるくらいだ。母親の身体的、精神的負担は男には計り知れない。だからこそ、俺が考える以上に気遣いと努力をしなければ、きっと不釣り合いだ。人ひとりを、ヤンはもう育てている。置いていかれてばかりではいけない。ヤンだけに負担はかけない。そう誓ったのだから。
ヤンはというと、寝支度の前にフルーツティーを淹れてくれた。俺が疲れを感じた時、何も言わずとも甘めの紅茶を淹れてくれる。そういったひとつひとつが、大切で、愛おしい。
ヤンが好きだ。一生かけても伝え切れないくらい、愛している。もう寝てしまっただろうか。せめて、寝顔だけでも見たい。
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