2.3

 父と話をした。

 俺がヤンと結婚してからすぐに父は旅行に行ってしまったから、こうして酒を酌み交わしたのなんて初めてかもしれない。


 昔、俺とヤンが旅に出る前にこの家の成り立ちは聞いていたが、今日は父と母の馴れ初めを聞いた。曰く、父の一目惚れだったとか。

 平民の父と違い根っからの貴族だった母との結婚に、母方の祖父は猛反対だったという。諦めきれない父は、ならば迎えるに相応しい家にしてみせると、そしてそれを叶えてしまったらしい。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。今だからこそ分かるが、簡単なことではない。

 俺から見た祖父は、優しく穏やかで、本や玩具など欲しいものはなんでも買い与えてくれた。そんな印象しか無かったから、父の話を聞いて驚いた。一般的に想像される、高圧的な貴族に近い人柄であったと。そちらの方が想像できないが、人は決して一面では語れない。自身がそうだからこそ言える。

 思えば俺は、ヤンに対して酷い振る舞いをしてきた。絶対に忘れてはならないし、だからこそこれからの人生をかけてヤンを幸せにする。それだけは譲れない。ヤンに対し、こういう思いを抱くようになったことが、以前の俺との最大の変化だろう。


 父からは他にも、仕事に関する助言ややり残したこと、そして旅行についての謝罪があった。俺も大して詳しくはないが、普通は当主の座を生涯務め上げるものだと。

 これも、今の俺なら分かることだ。そんな経緯で結ばれたとなれば、唯一の人をなによりも優先したいと思うのも理解できる。実際、俺が父の立場だったとして、きっと同じことをしただろうから。

 かといって忙しさに目を回したのも事実だ。ただ許すのも癪だから、母を大切にしてくれて嬉しいと父のことには聞こえない振りをすれば、目を輝かせて母の良いところや好きなところを熱く語ってきた。酔いもあったのだろうが、相変わらず父は、母のことになると我を忘れる。幼い頃はよく父と二人で母を取り合い喧嘩したことを、ふと思い出した。

 俺もいずれ、父のようになるのだろうか。もしかすると、もうとっくに。


 ヤンに、会いたい。

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