29.2

 明日は、両親が遊びに来るらしい。手紙が届いたのが今朝だというから、相変わらず急だ。行き違いになったらどうするつもりだったのだろうか。

 二人が田舎に越してから、久し振りに会う。母と世界一周旅行をして田舎町に暮らす夢があるからと早々に当主の座を退いて、戸惑う俺を尻目に旅に出てしまった父のことだ。何をしでかしても、驚くだけ無駄な気がする。


 仕事部屋は父のものをそのまま使わせて貰っているが、両親の部屋は手付かずで置いてある。幼い頃は何とも思わなかったが、今になってみれば二人で一室を使っていたのもおかしな話だ。俺でさえ、ヤンには一部屋を使って貰っているというのに。

 三日の滞在を予定しているらしいから、掃除を頼むついでに改めて両親の部屋を見てみた。昔は大きく見えた父の机も、なんてことはない、ただの机だった。追いつけた嬉しさと、なんとなく寂しさも感じた。しかし、真に追いついたとはまだ言えない。父のように、そして父を超えて、この家を守り続けたい。


 棚に並んだアルバムをめくって気付いたことがある。父が写っているものが、少ない。田舎で暮らすにあたって、どうしてもというものを選んで持っていったようだが、それにしたってあまりに少なすぎた。

 幼少期、父が遊んでくれなかったという記憶は無い。写真を撮れるような時間は無かった、ということだろう。その頃の父はきっと、あちこちを駆け回り、家と事業の安定のため必死だったのだと思う。

 ホフマン家そのものの歴史は恐らくそれなりにあるのだろう。だが、貴族としてのホフマン家は俺で二代目なのだから、浅いと言うのも憚られるほどだ。この屋敷で生まれ、物心ついた頃から周りには使用人がいて、食事なども今考えればかなりの贅沢をした。その環境を一代で築き上げた父に、尊敬の念が尽きない。


 明日からの三日間、父とたくさんの話をしたい。

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