28.2
日記を書き始めて三日目にして、ヤンに見つかってしまった。人の日記を盗み見るような奴ではないが、落とした拍子に見てしまったらしい。
読もうとはしなかったと前置きした上で、“私のことばかり書き過ぎだ”と笑われた。正直、仕方がないと思う。今の俺の頭の中は、家のことと生まれてくる子のこと、そしてヤンのことが多くを占めている。そもそもこれは俺の日記なのだから、何を書いても良い筈だ。
言い訳でしか、ないのだが。
自分のことを書こうにも、何を書くべきか迷う。朝起きて、テオドールとヘレナ、時々ドミニクとも打ち合わせをして、仕事に打ち込む。そんな毎日だ。
ただ、この変わらない毎日がとても幸せだということは、胸を張って言える。こんな幸せな日々が続いて欲しいと願っているし、ヤンにとって、テオドール達にとって、そして俺達の子供にとって幸せな毎日を決して失くしてしまわないよう、俺が頑張らなければいけないことも分かっている。
当主の重圧というものは、やはりある。自分の言葉の選択ひとつで何もかも決まるこの状況には、どれほど時を、回数を重ねたとして慣れそうにない。慣れは油断を生むと思えば緊張感を持ったままでいた方が良いのかもしれないが、商談の日には生きた心地がしないのも事実だ。
ヤンは、その日の前の晩にはいつもハーブティーを淹れてくれる。緊張が気付かれていると思うと居た堪れなくなるが、自分自身それに救われているのだろう。ヤンは俺をよく見ているし知っている。だからこそ、俺自身も弱さをさらけ出せる。
また、ヤンのことばかりになってしまった。笑う顔は見たいが、恥ずかしいことこの上ないので、もう見られることのないよう祈るばかりだ。
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