幕間 3

 ――幕間――




「――一通り、完了だ」


 鵐木児が言うと「待ってました!」と理紫谷円子が元気に立ち上がった。


「いやあ、待ちに待ったね。予想より一年近く遅れてしまった。まあ、誤差の範囲内だがね」


 そこにいる全員の表情を裏切って、円子だけは満面の笑みだった。いや、俺たちの感情表現が希薄すぎることも問題なのだろうが。


「どうする? すぐ起動できるが」


「いやいい、ちょっと待って。実はもうひとつあるんだ」


 またなにか言い出しやがった。だから解る。たぶんここにいる誰かが反発するから、これまで黙ってやがったな。


 円子は部屋をゆったり歩き始める。円を描くように。白衣を引きずって。人差し指を一本立てて、それも回す。目を閉じて歩く。なにかを考えているのか?


 誰も言葉を発しなかった。この少女のような外見の女を見つめているだけ。ここにいる誰もが、望んで参加しているわけではないこのプロジェクトの、彼女は指針だから。なんならいきなりプロジェクトの中止を言いださないかと俺はにわかに期待した。たとえそうなっても、人類がじわじわ腐るようにこの世界からいなくなるだけだ。たいした話ではない。


 だが立ち止まった円子は、ゆっくり目を見開くと、人差し指の回転を収束させながら、その指先を俺に向けた。


「最後に君の話を聞きたい。名も知らぬ誰かさん」


 いたずらっ子のような笑みで、彼女は俺を刺した。まだいつかのことを引きずるような呼称で。


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