第12話 葛藤

自分のワガママなことはわかってる。でも、それでも、私は納得できなかった。


(ただ一言、連絡くれれば良かったのに)


私に全く連絡もしないで、私の知らない友達と一緒にいて、楽しそうにしてて、私だけの友達だと思っていたのに……!


まさしく独占欲。


早希は誰のものでもないのに、私以外の誰かと仲良くしているのが悔しくて憎かった。私だけと仲良くして欲しかった。


理不尽な怒りだとわかってはいても、沸々と奥から沸き上がってくる怒りは、自分ではどうしようもないほど持て余していた。


(何で、何で、何で。私には早希しかいないのに……!)


あれから早希から連絡がたくさん来ているけど、返す余裕がない。自分は連絡が欲しいって思っていたのに、自分は返さないなんてワガママ過ぎると思うけど、それでもどうしても返す気にはなれなかった。


最初から返信さえしてくれたら、こんな気持ちにはならなかったのに。何で今更、と自分勝手でぐちゃぐちゃな考えが頭の中でいっぱいになる。


(そもそも、何て言えばいいのかわからない)


お母さんもあれから私がおかしいのに気づいて、当たり障りないことしか聞いてこない。


でも、私が早希の話をしなくなったせいか、早希と何かあったことは察したらしい。だから、あえてその話題は出さないようにしているみたいだった。


(……もう嫌だ。こんなことでぐちゃぐちゃ悩むなんて!そうだ、勉強。勉強しよう)


ぐちゃぐちゃしてる思考を断ち切るために、勉強を始める。勉強は余計なことを考えなくていいから好きだ。ただ勉強のことを考えればいいのだから。


(え、と、参考書、参考書……)


そう思って取り出すと、出てきたのは早希からもらった参考書。衝動的に壁に向かって投げる。


バンっ!!


壁に当たった参考書は大きな音を立てて壁にぶつかり、そして重力に従うまま床に落ちた。


(もうやだ)


もう嫌だ。もう嫌だ。もう嫌だ。


そもそも私は、何のために勉強をしているんだろう。


私は何で生きているんだろう。


あのときどうして死ななかったのだろう。


頭をぐしゃぐしゃに掻き毟る。考えても考えてもわからない。本当ならごく普通の生活をして、家族揃って、ただ何でもない毎日を過ごしていたはずなのに。


どうして、どうしてこんなことになっちゃったの?


(生きているのがつらい)


10年。


10年が抜け落ちた私の人生は一体どうすればいいの。


この10年どうやって取り戻せばいいの?


どうして、何で、私だけがこんな目に合わなきゃいけないの!?


今まで我慢してた感情が、爆発するように弾け飛ぶ。今はこの気持ちをどうやっても抑えることができなかった。


キッチンにフラフラと歩いて行き、包丁を取り出す。


(これで切ったら死ねるだろうか、……でも痛いのは嫌だな)


そう思って包丁は元の位置に戻す。ならば、と今度は戸棚の前に行く。取り出したのは風邪薬だった。


(これを、いっぱい、飲めば……)


ジャラジャラジャラ、と瓶に入った錠剤を手に出す。そして、それを口いっぱいに入れると、水を取り出してどんどんとゆっくり飲み込んでいく。


苦しい。苦い。胸が詰まる。


それでも、瓶の中が空っぽになるまで一生懸命飲み込んでいく。


(これで、死ねる、かな……)


時間が経つとだんだんと眠くなってくる。


(あぁ、気持ち悪い。苦しい。でも、……眠、い……)


意識が遠のいていく。だんだんと身体から力が抜けていくのを感じながら、私はそのまま意識を手放した。

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