メモ

胆鼠海静

三月が近づき、春に向けて段々暖気を伴っていく窓からの風に当たっていると、ああ、もうそろそろユユムが死ぬ時期だな、と思っている自分に気づいた。はっきりとは覚えていない。ユユムが死ぬのは、三月の初旬に集中しているが、毎年毎年微妙にばらつくので、いつしか覚えていられなくなった。悪いような気もするが、毎年毎年泣いているのも、悲歎がパターン化しているようで、どこかしっくりこない。そういった、日常生活に支障を来さない程度の、違和を含んだ、ぼんやりとした感情に覆われながら、私は二月の終盤を過ごす。

アクアリウムに、日めくりカレンダーの機能をもたせたようなものだ。30cm×30cmの立方体状ディスプレイの中で演算されたキャラクターが、そういった情報的密室の中で、約一年の生活を送り、死ぬ。

寿命に若干のばらつきがあるように、性格も様々だが、無精なので、全てユユムという名前に設定している。名前の力は凄いもので、一年毎に異なる性格でも、同一人物としか見なせなくなってしまった。

何回も死んでいるので、死を超越している訳ではない、そんな存在。

来年の二月終盤も、そろそろ死んでいる頃だ、と思いながらこうやって窓辺にもたれかかっているのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メモ 胆鼠海静 @nikyu-nikyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る