13・ダンジョン前にて



柄にもなく、スヴェンは静かに・・・困惑していた。


いつもはしゃいでいる印象が強いので、激しく狼狽する印象を持たれることがあるが、実際には"狼狽する"こと自体が滅多にない。なので現在も、"狼狽"はしていない。只々、困惑していた。こういった場面は慣れている・・・・・が――否、彼女・・のこういった謎の行動・・・・に慣れてはいるが、今己はどうすべきなのかを悩んでいるのだ。


「な、なんでぇッ!?やっちゃったっ!また・・やっちゃったよう~~~~~」


彼女・・――"ケイシィ・ラヴァルド"は、ジェイ、リード、ブレイド、スヴェンの4人と同窓同学年の女子ではあるが同級であったことはなく、4人の誰とも特別親しくはない。だが、4人の誰しもが何らかの場面で彼女の奇妙な行動・・・・・を目にしたことがある。その行動理由が一体何であるのかは不明で、本人も明かすことはないが、時折こうして妙な行動を起こすのである。そうして例に漏れず、今回も。


理由は不明だが、とりあえずケイシィはダンジョンの前まで全力疾走でやって来て、転倒し、ブレイドに真っ向から突撃してしまいそうになった。そしてそれを逸早いちはやく察したジェイが、ブレイドをかばった。が、やはりえないオタクでしかないジェイは、ケイシィの頭突きでダンジョンに突っ込んだ。それも、庇ったはずのブレイドも巻き込んで。当然、手錠でジェイと繋がっていたチェリカもダンジョンに吸い込まれていった。


残ったのは、それらを呆然と見守っていたフィン。狼狽し叫ぶケイシィ。そして困惑するスヴェンである。


(あたしだけでもダンジョンのせつめーを聞いた方がいーんだろーか…?)


「なんでこぉなっちゃうのよう~~~!私のばかッ!ばかばかばかァッ!!ジェイくぅぅぅ~~~~んッ!!!!イヤァァァァーーーー!!」


「ん?でも聞いてたら置いてかれそーな気がするぞ!」


「ヒヤァッ!?ウ、ウインドしゃぁんっ!!?」


スヴェンが時間にして一分足らずで出した解決案を口にすると、今まさに存在に気が付いたといった様子でケイシィが飛び上がる。


「よう!相変わらずあたしのことは眼中ゼロだな、ラヴァルド!ま、いーや!センパイ、ダンジョンって手ぶらでもいーのか?」


「ダイジョブよん♪だってダンジョンだものぉ~♥」


「おっけー!じゃーなラヴァルド!」


「なっ!えっ、はぁ!?ちょ、待」


ダンジョンに踏み出したスヴェンを止めようとするも、伸ばしたケイシィの手は空を切った。その上――


バチンッ!


「……ッ」


ダンジョンに繋がる空間のが一瞬で閉じられてしまった。直ぐにでも追おうとしていたケイシィは、ジロリとフィンをにらみ付ける。


「さぁてぇ~?貴女はどちら様ぁ?招待券、持ってないでしょぉ~?」


「………」


「どぉやって結界を通ったのぉ~?同伴者も無しにぃ~?」


「………」


「うぅ~ん…質問を変えましょうかぁ~?」


かたきでも見るような形相のケイシィを意に介すこともなく、フィンはわざとらしく小首を傾げた。



「どぉやって結界を破ったのぉ?」



フィンの質問には強者の圧があったが、ケイシィはじっと黙って睨むばかりで、その質問に答える様子はない。答えはしなかったが、静かに右手に持った・・・・・・ままだった鋏・・・・・・を掲げてただ一言、こう言った。



「"ちょっきん"」



――フィンはもう、自分が今この瞬間に一体誰と対峙たいじしていたのか思い出すことはないだろう。

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