12:おいでませ!ダンジョン部(1)




「よ~うこそ!ピッカピカの新入生諸君ン~☆」


(またテンション高い系キャラきた…)


「と!思ったらぁ?ピカピカじゃないチェリちゃんが一緒じゃないのぉ~」


「悪かったですね、ピカピカじゃなくて」


チェリ先輩に連れられてやって来たのは第一校舎の裏庭だ。"招待券"にも裏庭と合ったので、今 目の前で間延びした口調で話す女性はダンジョン部の関係者なのだろう。そしてチェリ先輩が敬語なので、恐らく3年生だ。


第一校舎裏のこの場所は草木が生い茂っており、目視できる距離に校内外の敷地を仕切るフェンス等がないので、"裏山"と言った方がしっくりくるかもしれない。


「わたくしはダンジョン部の部長、"フィン・リバイヴリック"よぉ~よろしくねぇ~。ファミリーネームは長いからぜひファーストネームで呼んで頂戴ねぇ!ちなみに3-A!Aクラスの担当上級生もやってるから何かあれば頼りにしちゃってねん!」


「…は、はあ…」


新たなテンション高い系キャラに うろたえているこちらの事など気にもかけずに、自分の話したいことをトントンと話していく先輩。


「そうそう!そぉ言えば4人なのに招待券2枚しかないでしょぉ~!チェリちゃんは良いとしてぇ、誰なのぉ、招待されてない場違いちゃんはぁ~?」


「ジェイくんさッ!!!!」


「すげぇ力強さッ!!」


フィン先輩の問いかけに、それまで大人しかったチェリ先輩が急に元気を取り戻してしまった。


「ふはははは!という訳なので場違いちゃんのジェイくんは!私が!お引取りして貰いますねッ!!」


「ちょっとちょっと~それはないでしょぉ~逃がさないわよぉ~」


「…ちっ…」


チェリ先輩は妙に聞き分けよくその場にとどまったが、憎たらしそうに舌を打つ。


「あの…」


「んン~?」


ブレイドは招待券を取り出して、先輩に見せるように少しかかげ 口を開いた。


「どうして私たちの中に、招待券がない人がいるって分かったんですか?」


「あぁ~!第一校舎裏庭はダンジョン部の活動場所でねぇ、間違って誰か入らないように放課後は結界で空間を閉じてるのよぉ~。それで見学期間中は招待券を持っていれば通れるようにちょぉ~っと調整してあるのよん♪でもでもぉ!勝手に入られると危ないから出入りで情報はくるようになっているのぉ!」


「結界…」


(すげぇ稚拙に見えるチケットにそんな高度な仕掛けがあるとは…)


魔術には多数の分類方法があるが、その中に結界術というものが存在する。国立シード魔術学園で最も多用されている魔術であり、国防で最もかなめとなる技術でもある――とは先日の結界術の授業で教わったことだ。


この世界で武力を用いた戦争に発展することが珍しくなった背景には、この結界術の発展によるところが大きい。


「そう、ダンジョン部は結界術のエリートたちが集う部活なんだ!つまりぃ、複雑な魔術式が必要である結界術の行使には、豊潤ほうじゅんな魔力量を持つことが絶対条件!魔力適性最低ランク、γガンマのジェイくんには無理ッ!見学するだけ無駄ッ!!さあ!行こうか私の同好会へ!!」


チェリ先輩は今こそ好機と言わんばかりの喜色満面といった様子で、激しい身振り手振りを交えそう言い放ち、華麗な動作で回れ右をした。


「そんなことないわよぉ~、それはチェリちゃんの方がよぉっく知ってるんじゃない~?」


フィン先輩がそう返すと、チェリ先輩は渋々ながら回れ左をして再び説明を聞く態勢をとる。


「確かに結界術チームは魔力適性が高い方が良いけどぉ、製作チームは何より発想力が重要よぉ!体験したことのないトラップ!難解な謎解き!そんな面白いダンジョンを作るための仲間なら大歓迎よん☆」


「ハン!魔力適性高ランクの人間にしか招待券を出してないくせに何言ってるんですか」


「だぁ~って、誰でも彼でも呼ぶ訳にはいかないじゃなぁい?発想力なんて事前に分かりようがないんだからぁ~。で!発想力豊かな魔道具発明家ちゃんが連れてきた子ならちょぉっと期待しちゃうでしょぉ!」


「ちっ」


(顔が利くってほんとだったんだな)


どうやらフィン先輩はチェリ先輩を"知り合い"ではなく、"魔術師として高い能力を持っている人間"として区分している様子である。だからこそカンザキ先輩は俺に、"チェリ先輩と一緒にいるだけで何とかなる"という伝え方をしたのだろう。…チェリ先輩は不本意だろうが。


「っていうかぁ、そぉ~んなに嫌なのになぁ~んで見学に連れて来ちゃったのよぉ?もしかして冷やかしぃ~?」


「失礼な!私もそこまで暇ではないですよッ!」


「ええ?じゃぁ~……あ!わかったぁ!首輪・・でしょぉ~!」


「………」


チェリ先輩は悔しそうに唇を噛み押し黙る。


「"首輪・・"?」


確かカンザキ先輩も、『"首輪・・"をかけられた方がわりィ』――そんな事を言っていた。


「そ!リョウゴくんの固有魔法は知ってるぅ?」


「あ、はい。一応、さっくりとは…」


「彼の固有魔法――"号令"はねぇ、誰にも彼にも効果アリって訳じゃぁナイのよぉ~。そ・こ・で!登場するのがぁ、"首輪"ってワケぇ!」


フィン先輩は両手であたかも自分の首に首輪が下げられているかのようなジェスチャーをし、楽しげに続ける。


「悪い子は制服のネクタイとかリボンにリョウゴくんの魔法をよぉ~く通しちゃう術式を刻まれちゃうのよン☆だからみんなはちゃぁ~んとお利口さんにするんですよぉ~?」


「いーからッ!とっとと本題に入って貰えますゥッ!!?」


どうやら耐え切れなかった様子のチェリ先輩がそう言うと、フィン先輩はからからと笑いながら右手で己の後ろ――何もない空間を・・・・・・・撫でた。


「えっ!?」


先輩の仕草は、まるで部屋のカーテンを開くようなものであったが、当然そこにはカーテンどころか空気しかない空間だったはずだ。それが今や、向こうの景色・・・・・・がみえている。


「ま!見学と言ってもぉ、裏方見せられてもよく分からないでしょぉ~?なのでこちらが体験ルームになりまぁ~すぅ♪」



みえているのは、薄暗い洞窟だ。――そう、ダンジョンである!!!



「おおおお!!」


「す、すごい!えっ!?どーなってるんですっ!?ウワーーーーー!!洞窟ですかっ!?めっちゃダンジョンっぽい!!!!生きてて良かったッ!!!」


「ちょっとジェイ、落ち着きなさいよ・・・スヴェンよりうるさいわよ…」


「これが落ち着いていられるかよッ!!?やべーーー!!!」


先ほどまで暇そうに、話を聞いているんだかいないんだか分からなかったスヴェンのテンションはダンジョンの登場に急上昇した様子だった。


が、それ以上に俺のテンションの上がり具合の方がやべーのは分かる。分かるがこの感動はとても抑えきれるものではない。


「いやー、予想以上にやべーなジェイくん!完全にオタクのあるべき姿になってしまっているようだ!それでこそ私の求めし人材!!」


「うう…ありがとうございましたカンザキ先輩…感謝…」


「そこはチェリ先輩で良くないか!?ジェイくんよ!?」


「んじゃぁ盛り上がってきたトコロでぇ~!さっそくダンジョンの説明を始めちゃお~かしらンッ♪」


各々上がり具合に差があるが、テンションの上がった集団を前に"いつものこと"と言わんばかりの慣れた様子で前口上を述べようとするフィン先輩だったが――



「イヤアアァァァァーーーーー!!!絶対ダメエエェェェェェーーーーーーーーーッ!!!!!!!」


「ゴブゥッ!!?」


「ちょ、」


「何、エッ、ウッ、ウワーーーーーーッ!!??」



ダンジョンの説明ではなくチェリ先輩の悲鳴を最後に、俺の意識はブラックアウトした。

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