10:先輩のドキドキ☆学園ツアー(1)
■
「まずはジェイ青年。私と心の距離を詰めようではないか。私のことはチェリ先輩と呼びたまえ」
「いや…」
先輩と出会った第一校舎の出入り口から、再び元来た道を戻っている。どうやら特別教室のある第二校舎へ続く渡り廊下へと向っているようだ。
先輩は右手を己の胸にあて、期待に輝く瞳でこちらを見ている。
「チェリ先輩!と!!」
「いや…」
立ち止まりこちらに詰め寄る先輩。
「チェリ!先輩!!」
「わ、わかりましたから勘弁してくださいチェリ先輩…」
「よし!では私は君をジェイくんと呼ぼう。…いえ~い、な~か~よ~し~☆」
俺の頬をつつく
再び歩き出した先輩に、今度はこちらから最も気になることを質問してみた。
「ところで先輩の同好会って、どういう会なんです?」
先輩は丸っこい目を更に丸くして「言っていなかったか?」と零してから、思いついた様ににんまりと笑む。
「活動室につくまで秘密だ!」
「え?名前だけでヤバい同好会なんですか…?」
何それ震える。恐怖で。
「
(良い事言った感じの顔をしているが、こちらの不安はむしろ煽られました先輩…)
「君は部活動見学がしたいんだろう?私の同好会だけ紹介するのは
「えっと…」
てっきりこのまま先輩の所属する同好会のアジトに連れ込まれ、無理矢理 入会届けにサインでもさせられるのかと思っていたので少し驚いた。
「じゃあオススメの部活と同好会を紹介しつつ校舎を回るから、希望のところを見かけたら言ってくれ。そこも紹介しよう」
「えっ急に話が通じる先輩になられても怖いんですが…」
「話が通じてない場面なんてなかっただろう?どうしたんだ急に…」
肩を
(めっちゃ納得いかんが、この際とりあえず結果オーライとしよう。先輩ならきっと他の部にも知り合いがいるだろうし、単身で乗り込むよりは遥かにマシなはずだからな)
「それにしても女子と二人で部活見学なんてラッキーボーイだな!私に感謝したまえよ!」
「えっ…」
――
(嘘じゃんッ!!!??)
何ということだ。"ぼっちよりキツイ"と言っていた"女子と二人で部活見学"の状態に何故かいつの間にか追い込まれていた…!先輩という認識が強すぎたのと、当人のキャラクターのぶっ飛び具合のせいで、女子だという意識がまるで無かったためだ。
(それどころか手錠つきなぞもっとヤベーじゃねーかッ!!どゆことッ!!?)
「せ、センパイ?こ、こちらの、これ、どうにかしてくれませんか?」
震える右手をあげ、もう一方の手で指差し訴えるが先輩は即座に拒否する。
「嫌だ!逃げるだろ君!」
「逃げません!逃げませんから外して下さいッ!こんなん着けて歩き回ってるところなんてクラスメイトに見られたらぼっちどころか変態扱いされるんですよ…ッ!!」
"魔法を眺めてニヤニヤしているちょっとキモい生徒"の予定が、"冷ややかな眼差しを注がれ続けるペア組むときに毎回余る生徒"になってしまう!
しかし俺の焦りとは裏腹に、先輩は快活な笑顔で口を開いた。
「なんだ、それなら心配無用だ!これには"
「へ?」
「魔術や魔法と同様、魔道具についても学園内では規制されているからな。これが教師に見つかったら困るのは私だ。故に抜かりはない!」
「…ど、どこから突っ込んだらいいですか…」
「私は魔道具を専攻している!これくらいの魔道具ならバレずに使うことなど造作もないぞ!」
故意に校則違反をしていると包み隠さず教えてくれる先輩。そして高い能力を持っていることも明かして下さってますが、どう考えても能力の無駄遣いですよねソレ。
「この魔道具の素晴らしい完成度に感動しているのか?よろしい、ならばとっておきの部活動を紹介してやろう!!」
無言を何故か感動と受け取った先輩は得意げに廊下を突き進んでいく。俺の右手をぐいぐいと引きながら…。
■
パチパチパチ
幕が下りると、俺は他の観客と共に舞台にむかって拍手を送る。短い演劇だったが、とても面白かった。
先輩に連れられやって来たここは、視聴覚室。映画館のような折りたたみ式の椅子がざっと50席ほど並び、席には前後で少しの高低がある。前にはステージも。視聴覚
部屋に入ると丁度 劇が始まるタイミングだったため、説明されずともここが演劇部だと理解した。
再び幕が上がった舞台では、演者だけでなく 裏方であろう上級生たちも並んでおり、活動日や内容などを軽く説明してくれる。
「では、見学はこれにて終了となります。入部希望の方は用紙を受け取ってお帰り下さい。又、質問等も受け付けますのでお気軽にどうぞ!」
「いくぞ、ジェイくん」
「へ?」
先輩は立ち上がり さっさと舞台の方に向って歩いていく。この部屋に入る前に手錠の鎖は少し長くしてもらったものの、未だ繋がっているため慌てて先輩を追う。
「先輩、俺まだ
「わかってるさ。入部届けを取りに行くわけじゃあない」
先輩はそう言うと 用紙を配っている部員を素通りして、迷うことなく舞台横の、恐らく舞台裏に続いているであろう扉に手をかけた。
ガチャリ
「ん?お、チェリ。どうしたの」
「やあやあ諸君!めーっちゃ面白かったぞ!」
「ええ?もう見飽きたんじゃない~?」
「まさか!」
「あれ、その子は?」
開いた扉に反応した女性は慣れた様子でチェリ先輩と二言ほど交わすと、こちらに気付いたようでにっこりと笑んで紹介を促す。
舞台ではヒロインの相手役――つまり男性役を演じていた女性だ。未だ衣装のままなので、まさに男装の麗人といった出で立ちである。
「我が同好会の後輩だ!」
「いえ!今のところ入会の予定はありません!」
「そうなんだ?魔道具に興味ないの?」
「……へ?」
「いや、舞台演出にめちゃくちゃ興味津々って感じだったからさ」
「え?」
「今誘っているのは魔道具じゃなくてオタクの方だ!」
「あ、そーゆーことね」
ポンポンと交わされる会話の意味を測りかね、答えを求めて先輩に視線を送る。
「実は私はジェイくんを誘っている会の他に、魔道具同好会というのにも所属してるんだ。舞台演出で雪が降るシーンがあったろ?あれも私の作品さ!」
「そうなんですか!」
先程の演劇の最中ちらちらと雪の舞う場面があり、それが本物の雪を魔術によって降らせていることに気付いてとても興味をもっていたのだが、魔道具によるものだったらしい。
「そう、チェリは魔道具を開発した一族――インク家の後継なんだ。それでその分野には明るいから、演出の相談をして小道具作ってもらったりしてるんだよ」
「つまり他にもあるんですか!というか、学園の敷地内は魔術規制かかっているって聞いてますけど、発動出来るんですね!」
「うん。実はここのステージ以外にも、場所によって規制が緩いところがいくらかあるよ。…君、もしかして魔道具すごい興味ある?」
魔道具には正直めちゃくちゃ興味がある。興味はあるのだが、しかし。
「だめだめ、ジェイくん
「…結構傷付くんですが…」
そう、ほとんどの魔道具は魔力を持つ者にしか扱えない。当然高度な魔道具になるほど必要魔力量も増えるため、魔術同様に魔力適性の低い者では扱えない魔道具も多くなる。
「さ、ここはこのくらいにして次に行こうじゃあないか!ジェイくん!尺の都合もあるから、巻きでね!」
(もうつっこまないです……)
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