08:制限と混線
「これは魔力の質をそれぞれ別の観点から探る道具で、こっちが"魔法を持っているか"。こっちのは"どんな魔術と相性がいいのか"を教えてくれるんだ」
「その前に一点質問よろしいですか?」
一人の女生徒が控えめに挙手して口を開く。
「うん、どうぞ」
「魔法持ちというのは魔力適性と相関性はあるんですか?」
「おお、いい質問。世間では魔力適性が低いと魔術がほとんど発動しないと言われてるからね、魔法も同じだと考えるのは当然の思考だ。だけど、魔法との相関関係は魔術とは逆で、むしろほとんど無いよ」
(ここでまさかのワンチャン…!!)
つまり魔力適性が最低ランクの俺も、もしかしたら転生特典として超スゴイ魔法を有してる可能性が出てきたということだ。来てしまうかもしれない、俺の時代が!
「それは先程の、『"その人間に魔術式が刻まれている"と考えればいい』という話と矛盾しませんか?私は魔術と魔法の違いは、魔術式が"見える"か"見えない"かだと解したのですが」
「その解釈で
「では魔法によっては、魔力適性の低いものでも高等魔術に匹敵する現象を起こすことが出来るということですね」
「そう!それが魔法の怖いところ!つまりね、
先生は手元の水晶を皆に見えるよう少し掲げて話を続ける。
「この国で産まれた子供たちは、必ず早い段階で魔力適性診断を受ける。そして適性のある子には、魔法発動時に威力をある程度殺すための腕輪が
その言葉に、生徒達は己の腕に
「これからの調査はその腕輪を、より"個人の魔力を殺す効果のあるもの"に替えるために行うものだ。新しい腕輪に刻まれる術式や形はそれぞれ違うものになるし、場合によっては腕輪ではないこともある。カンザキくんなんかは、首輪だしね」
「渡されたときは犬みたいだから絶対着けないって先生に直談判にし行ってましたわね」
「余計なことを言うな、ヴァニラ」
全員の目がカンザキ先輩の首に集中する。先輩はものすごく嫌そうな顔をしてヴァニラ先輩を睨んだ。
(あれ、ファッションじゃなかったのか・・・)
「実は魔術学園に入らない子供たちも、これから君たちが受けるのと同じ調査を学校の健康診断とか、何らかの形で必ず受けさせられるんだ。そして、同じように腕輪を着け替えられる。でも君たちのより重いよ。魔術学園の管轄外の子の場合は、魔力そのものの性質に対しても相殺する術式を組まれて、一定水準以上の魔術が扱えなくなるからね」
"何故そこまでするのか"。そんなのは聞かなくても分かる。一年生の表情は
「魔術や魔法を使えば、やりようによっては数百人の人間を殺すことだって可能だからだ。それが故意じゃなくてもね。だから君たちは制限される。これから先 一生、ずうっと。そしてその為の道具を作るために今日はまず、君たちの魔法を調査するんだ」
(
「基本的には制限するための腕輪を作る予定だけど、万が一、危険な魔法だった場合は"
「…混線とはどういうことですか?」
「いくら個人のためにカスタマイズしても、固有魔法を完全に殺す魔術式を組むことは不可能だ。だからそういうときは、魔法発動の経路を"混線"させて発動できないようにするんだよ――こんな風にね」
よく見るとそれは手の甲にまで及び、そして始まりは前腕より上――つまり胴体の方にも続いているように見えた。
「僕の魔力経路は結構上まであるから、首から腹にかけても描かれてるよ。これが……そうだな、海で言うと渦潮みたいなもので、これを魔術式でいっぱい作り出すことで思い通りに魔力が流れないようにされているんだ」
「うげえ…あれだ、あれのせいで気持ちわりーんだ」
スヴェンが舌を出して苦々しく顔を
「そう。魔力の流れを感じられる、感知系の人間からはこれがとても気持ち悪くみえるみたい」
「せ、先生の魔法って、なんなんですか…?」
「世界を滅ぼしかねないとか、なんです…?」
数人の生徒が魔王でも前にしたかのように恐る恐る訊ねた。
(この親切に自らのこと喋ってくれる系魔王は、多分バトル前に『世界の半分をお前にやろう』とか言って 勇者を
「ふっ…」
("ふ"…?)
緊張の面持ちで先生を見つめる生徒たち。
「ふふふふふっ、そんなとんでもない魔法だったら、多分、先生なんてっ、ふふ、やれないでしょ…っ」
(めっちゃ楽しそうに笑っている…)
「僕の魔法はね、"ある特定の人間のプライバシーを最大限侵害する"魔法だよ。
しばし、沈黙。
(それただのストーカーじゃねェかーーーーーッ!そんな人間が先生やることにもめちゃくちゃ疑問を感じるんですけどーーーーッ!!?)
確実に今、生徒たちは同じことを考えている。そう確信できる。先生の発言に
「と、まあ色々脅しをかけるような事ばっかり言っちゃったけど、全然普通の調査だし、制限の腕輪も特に素行に問題なければソフトな仕様だから安心してね~!じゃあまずはウインドさんから行ってみよ~!」
明るいストーカーの声が清々しい空の下、響き渡ったのであった。
■
今日の一時間目の授業では、先日魔法科学の授業で調査した固有魔法の有無などについての制限を追加した道具が各々に配られ、古い腕輪との着け替えが行われた。
「見てみ!さすがあたし!超太目のびっしり魔術式が彫られた腕輪になったぞ!偉大すぎるスヴェンちゃんの力を封じるために学園は必死じゃんっ!?」
「私のと対して変わらないじゃないの…」
「俺のは今までと変わった、のか?…一応術式はちょっと違うっぽい?けど…?」
「まー リードはザ・普通キャラだからそんな感じなんじゃないのか?…ところで!
「………」
俺はスヴェンの目の前に無言で右腕を差し出した。スヴェンだけではなく、ブレイドもリードも俺の右腕をちらりと確認してから俺の顔に再び目を向けた。
「え?なんだよ、腕輪じゃなかったのか?」
意外、と言わんばかりにスヴェンが目を丸くしてこちらを見ている。どうせバレるのだから、さっさと言ってしまったほうがいいだろう。
「……腕輪だよ…よく見ろよ…」
「…………」
思った以上に擦れた声が出た。全員の視線はまた俺の右腕に戻され、今度はしっかりと観察される。
「え?これ?……針金じゃん」
「
――どうやら俺の時代はまだ来ないらしい。
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