06・ある教師の懐古


「それで?俺に何の御用でしょうか、先生」


鋭い目付きで相手を睨む男子生徒――リョウゴ・カンザキは唸るようにそう言った。


「おーおー、怒ってる怒ってる、怖い怖い」


リョウゴが立つその目の前には、机と椅子、そしてその席に着く女性の姿があった。不機嫌そうなリョウゴとは対照的に、彼女はにんまりと笑っている。


「あのグリフォン、学校側の――いや、貴女の差し金でしょう。他の顔合わせ現場にも現れたと聞きました」


「そうだねえ、確かに提案したのは私だよ。でも皆もノリノリだったよ?中々面白かったでしょう?」


「……」


「そんな顔しなさんな。一応、君らで対処出来なければちゃんと手を出すつもりでいたし、担当上級生の実力検分と新入生の性質を把握するのに一石二鳥だったんだよ」


そう言いながら苦笑する彼女の名は"メイリー・ギブスン"。この学び舎で生徒指導を任されている教師である。ピンと伸びた背筋と自信を持った顔付きには、相手に軽視させぬ雰囲気があった。難しい年頃の生徒とは言え、彼女の前ではひねくれることが難しくなってしまう程度には。


「君をここに呼んだのはね、その例のグリフォン討伐イベントの映像をあげようと思ってなんだ。まずこれを観てよ」


そういっておもむろに取り上げたリモコンを 二人の良く見える位置に置かれた液晶画面に向けて操作すると、先日の映像が映し出される。


「まず、君がやってきたシーン」


中庭全体を映した映像には、リョウゴがやってきて言葉を発した瞬間に生徒の注目が集まる場面が再生されていた。


「何にも構えてないときにも君の"固有魔法・・・・"に反応しない子が数人いるでしょう。いざってときに困るから把握しておいて」


「わかりました」


「ちょっと進んで…ほら。今度は緊張状態だと反応しない子も出てきてる。あの"伏せろ・・・"に反応しなかったのには君も肝を冷やしたんじゃないの?ふふ」


「……」


「それに追い詰められると本質が見えるよね。状況対応力の高低も分かりやすいし。実はグリフォンの攻撃を自分で防いでる子もいたんだけど、気付いてた?」


「…細部は後で全員で・・・確認しておきますよ。それより、」


「せっかちだねえ、リョウゴは。まあそう言うならその辺は任せるよ」


特に気分を害した様子もなく、メイリーは映像を早送りする。映像はリョウゴ一人だった攻撃態勢から、女生徒を加えた二人体勢になったところに差し掛かる。


しかしそのまま早送りし続け、ついに終盤――リョウゴがグリフォンを仕留めるところまでやってきた。メイリーの手によって映像は刀身からほとばしる炎を捉えたところで停止する。


「ここでしょう?驚いたよ、雷の魔術と相性のいい君がわざわざ炎を使っているように見えた・・・・・・から」


「魔術の発動前にも違和感を感じていたので、一度 干渉魔術を探ってみましたが気配はなかったです」


「君の魔術は発動していたの?」


「はい。魔術は間違いなくいつも通りに発動しました。言うまでもなく雷の魔術として」


「つまり君の見解は?」


「発動後に干渉魔法・・の影響を受けたのだと思います」


「はい、大正解!さっすがリョウゴ!おめでとー!!」


パチパチと手を叩き、はしゃぐメイリーをじろりと一瞥してリョウゴが口を開く。


「やめてください。それより、写っていたんでしょう、その証拠」


「そうだよ。バッチリね。パッと見は炎に見えるけど、実際は雷の魔術発動後に、その雷が炎に変換されて・・・・・・・・・いる」


「……」


「やっぱり魔法ってのはいいね。魔術と違って、何が起きるのか分からなくてワクワクするよ」


「…浸るのは後にして貰えますか」


「ああ、ごめんごめん。…はい、メモリーチップ」


「ありがとうございます。では、失礼します」


「はいはい」


メイリーが差し出した記録媒体を手にすると、リョウゴは一礼して直ぐに部屋を出て行ってしまった。メイリーはそれを見送ると、一人懐かしむように停止したままの映像に目をやって、微笑んだ。「さて、」


「君は一体どういう人間になった・・・んだろうね?ジェイ・パーリィー」

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