三章3
アイレスはホテルの職員ほとんどに聞き込みを行ったが有力な情報は得られず、遺憾はありながらも日が暮れ始めていたので俺とアイレスは家路についた。
家の前まで来ると、玄関のドアに凭れているフャーガ警部がいた。大儀そうに腕組をして巻煙草で一服している。
警部は俺達を認めると煙草を口に咥えたまま、凭れていた身体をやおら起こした。
「遅いぞ、嬢ちゃんに坊主」
煙草を咥えているからか、少し声がくぐもっている。
顔の近くに漂ってきた煙草の煙を、アイレスが唇を歪めて手で払う。
「あたしの家の前で煙草なんて吸わないでっ!」
アイレスにきつく叱責され、警部は渋々指で挟んで煙草を口から離す。まだ長く残っている煙草を惜しそうに見つめて足元に放り捨てた。
「あたしの家の前に捨てるのもダメよ」
眼光鋭くして、苦言を呈する。
舌打ちを鳴らし、胸ポケットから銀のシガレットケースを取り出し地面に捨てた煙草をつまんで指の腹で火を揉み消し、その中へ叩きつけるように収めた。
「タバコ嫌いなところはエモン譲りか」
「タバコなんて臭いもの、吸う人の気が知れないわ」
侮蔑するような目で、アイレスは警部を見る。
警部はシガレットケースをしまうと、おもむろに言い出す。
「何か、目ぼしい情報はあったか?」
「ええ、一応。怪しい人物の名前を手に入れたの」
誇らしげにアイレスは笑う。
「そうか、こっちは何も。そもそもジーナ・クロースにアリバイを聞いただけだがな」
ははは、と豪快に笑う。どこにも自慢できる成果はないのに、よく笑うもんだ。
「ジーナは疑う余地もないわ。あの子は人殺しをできる肝がないし、動機もない」
「俺も同感だ、とはいえ俺は煙草を吸おうとしてその子に追い出されたけどな」
「そりゃそうよ。ジーナも煙草嫌いだもの。ガーゼルも嫌いよね?」
不意に話を振られたが、きちんと考えもって答える。
「まあ、嫌いと言えば嫌いだな。臭いが嫌いだ」
坊主もか畜生、と警部は目に見えて落胆した。
間を置いてアイレスが切り出す。
「アレックス、煙草の話とは関係ないけど頼みごとがあるの」
「なんだ、アイレス嬢ちゃん?」
「人探しよ、警察の管轄でしょ?」
「まあそうだが、で誰を探すんだ?」
「ラビアン・ドレス、巨乳らしいわ。捜索範囲は国中全部よ」
うへぇ、と警部はいかにも億劫そうに唸る。
「国中かよ、アイレス嬢ちゃん。勘弁してくれ」
「住所だけ調べてくれれば構わないから、じゃあよろしくね」
有無を言わせぬ支配的な笑みで、アイレスが言った。
気を落とした暗い表情で警部は通りにとぼとぼと去っていった。お気の毒に。
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