第12話 死した策士
耳元で微かな吐息の音が聞こえ、
燕はゆっくりと瞼を持ち上げる。
目の前には以前と変わらず、風に揺られる天幕の天井が見えた。
燕がちらりと真横に目をやると、
すーすーと寝息をたてる夜叉の寝顔がある。
「鬼も眠るものなのか...」
燕は夜叉を起こさないようにゆっくりと起き上がり、天幕の外にでる。
漆黒の暗闇の中では、血肉の異臭が漂っている。
燕は空を仰ぎ星を見つめる。
「...滑稽だな、国の長がこの様とは」
「そんなことはない」
腕が腰に回り、ふっと体を後ろに引き寄せられる。
「儂には可憐に見える」
「見よこの血の海を......私は必ずや地獄に落ちような」
燕がうつむく。
夜叉が髪を掴み燕の頭を持ち上げると、
顔を頬に寄せて囁く。
「これだけ殺しては地獄にも行けまいよ...ふふ」
「そう...かもしれぬな。
さて...夜のうちに城壁まで進み様子を伺う」
「策は決まったのじゃな?」
「ああ、確か西門前は見通しが悪かったはずだ。
木々が邪魔で矢を放つにも不向きだろう。
そこを突破する」
燕は夜叉の腕を振り払うと、天幕の中に戻り地図を見る。
夜叉が後をついてくると、燕の前に立ち地図を眺める。
「この西門前の森に向かう。
西門のちょうど上に印があるが、ここを突破するのが一番容易い」
「なるほどのぅ......城内に入ったあとは?」
夜叉は顔を上げると、目を細め燕を見つめる。
「...民に罪はない、兵達を斬り捨てながら大臣を探す」
「......ぬるいな」
燕は顔を上げ夜叉を見る。
「...黒羽」
「もうよいそれで。
さて......腹ごしらえでもしようかの」
夜叉は天幕の中に倒れる死体から足を千切り取ると、ばきばきとかじりつく。
「......」
燕は寝床に座り夜叉を見つめる。
「なんじゃ?食わんのか?」
「見るのは慣れたが食うつもりはない」
夜叉が食べ終わるのを待ってから、
燕と夜叉は天幕を出る。
砦を出て道を真っ直ぐ北に進むと、
高い城壁が見えてくる。
燕は夜叉に手で合図をして森に入り、西門に向かう。
西門から少し離れた木々の間から城壁の上を見上げる。
「暗くて兵が見えんな......」
「いや、真上に十二人おる」
「やはり伏兵の印であったか...」
燕は刀を抜く。
「行けるか?」
夜叉もゆっくりと刀を抜くと、
片方の口角を上げる。
「...いつでもよい」
燕が先に木々の間から城門に向けて走り出す。
途中矢が数本飛んでくるが当たらず、
そのまま城門に着く。
夜叉が燕のすぐ後を追いかけてくると、
城門の前で深く腰を落とし踏み込み、
城門に向かい蹴りを放つ。
「はぁああ!」
轟音と共に扉が砕け散ると、夜叉と燕が城内に走り込む。
「存外上手くいったな」
「待て燕......辺りから鼓動が聞こえぬ」
「どういうことだ?」
夜叉は目を閉じ耳を澄ませ呟く。
「城外から大勢の足音...千は越えておるな」
「なんだと!」
夜叉がゆっくりと目を開き、破れた城門の方を向く。
「謀られたな...袋の鼠というわけじゃ」
「大臣がこのような知略を......いや、これは
燕が歯を食い縛り西門を見つめていると、
夜叉が刀を納め燕を背後から抱き寄せる。
「ふふ、何も焦ることはない...ただ奴らを皆殺しにすればいいだけじゃ。
儂とお主で......のう燕よ?」
背後から囁く甘い吐息に、
戦慄を覚えながらも燕の胸は高鳴る。
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