第9話 王国軍

追軍の兵士達、薙の首を断ち全てを屠った燕と夜叉はひとまず森に潜伏する。

夜は明けて朝日が差し、太陽が顔を出す。


「私は最後どうなっていたのだ...」


燕は炎に焼かれる獅子を見つめる。


「人間としてのお主は体力がない。

ゆえに体力の低下とともに鬼の血が活性化したのであろう。

憎しみにのまれると悪鬼に成り果てるのじゃ、そうなるともう理性は働かなくなる」


夜叉は燕の隣に座ると手に持つ七夜刀を眺める。


「儂がお主の傍におる限り、お主が暴走することはない。

儂から離れておるときはあまり無理を強いるでないぞ」


燕は夜叉の七夜刀を横目で見る。


「私を乗っ取ろうとしたのは、私の刀ではあるまいか?」


「聡いのう。そうじゃ、七夜刀を通じてお主に鬼の力を伝えておるのでな」


「私が少しでも弱さを見せようものなら、容易く心など打ち砕かれような...」


燕は炎の方に視線を戻し、遠い目をする。

夜叉は燕の横顔を見つめる。


「そういうことじゃ...気をつけよ」


そう言うと、夜叉も炎に視線を移す。


「......して、これからどうする?」


「東の道を北にゆく...その先には王国軍の砦があるのだが、薙が戻らぬとなれば大臣はそこに兵を集中させるはずだ。

避ける道もなくはないが...」


「何か考えがあるのじゃな?」


「ああ、薙の失策により大臣は焦っておるはず......次に差し向けるならば将軍かそれ以上。

砦にでばってきておるのが誰なのかは見ておかねばならん」


「そういうことか。して、いつ動く?」


「これから砦に向かう、だが仕掛けるとなれば夜だ。

暗闇に乗じて乗り込むのが得策である」


「なるほど......夜とあらば儂も動きやすい」


「どういうことだ?」


「儂は陽が差さぬ夜は自在に姿を消せるのでな」


夜叉は立ち上がると、腰に鞘を差す。


「では、早速ゆくとしよう」


鋭い目付きで北の方を見つめる夜叉。


「ああ」


燕も立ち上がると、七夜刀を腰に差す。

二人は東の道に沿い森の中を北に進み始める。


太陽が真上に昇る頃に到着すると、砦から少し離れた森の中から様子を伺う。

砦の中央にはいくつもの天幕があり、

その周辺を兵士達がうろうろと見回りをしている。

それらを鉄でできた柵で取り囲んでいる。

茂みから見る燕が一際大きい中央の天幕を指す。


「おそらくあの砦の大将はあそこにいる。

顔を出すまでここで様子を見るぞ」


「......」


燕の隣にいる夜叉は、無言で燕に背を預け座りこむ。


「...黒羽?」


燕は夜叉の方に向くと、肩の辺りに後頭部が見える。


「...なんでもない、少し背を頼む」


「......ああ」


陽も傾き夕刻になる頃、天幕の入り口が揺れる。

燕は沈む瞼を持ち上げ目を見開く。

天幕から出る人物を凝視した。


「見よ黒羽。あれが鷹の国の将軍だ」


夜叉はさっと腰をあげて燕の隣に添うと、

燕の頬に横顔を近づけその人物を凝視する。


「......隙の無い人間よのう」


「あれは大将軍の子息で名をしゅうという。

文武ともに長けた秀才で、鷹の国では奴の右に出るものはおらぬとまで言われている。

私の幼なじみでもあるが、一番相手にしたくない奴だな...」


「......夜襲は諦めるか?避ける道もあるのであろう?」


夜叉が至近距離で燕の顔を見つめる。

角を隠しているため、その美しい顔だちに思わず言葉を失う。


「......」


「お主...儂になど盛らんなどと言うておらなんだか?」


そういうと、夜叉が半眼で燕を睨む。

燕はハッとして慌てて返す。


「む...無論だ、誤解をするな。

まぁ避けたい所ではあるができればここで...。

奴とて夜になれば油断するはず、その瞬間を狙う」


「まぁよい......夜までにはその粗末な一物を鎮めておけ、目のやり場に困る」


「こ、これは違う!」


「ふふ、マシな言い訳も思いつかんほど欲情しおって」


夜叉は微笑み立ち上がると、ゆっくりと森に消えていく。














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