第8話 旧友の最期

燕と夜叉が次々に兵達の首を落としていく。

残り百人ほどになると、夜叉が燕の前に出る。


「あとは儂に任せて奴を追え、儂もすぐに向かう。

見事首を落とし、憎しみを晴らすのじゃ」


「わかった」


燕は大回りに東に走り始める。

兵達が燕の方に意識を向ける瞬間、夜叉が斬り込む。


「余所見とはなめられたものじゃな。

早々に皆殺しにしてやる」


燕が東の道を北に進む。

しばらく走り続け、薙の姿を捉える。


「待てい卑怯もの!

兵を置いて逃げるなど将のすることではないぞ!」


「何を言うか!

私は一軍の軍師、こんな所で死んではいけないのだ!」


「貴様ぁあああ!」


燕は思い切り踏み込むと、薙の跨がる馬目掛け飛翔する。

七夜刀を構えると、馬の後ろ脚を狙い切り払う。

薙が馬から振り落とされ地面に転がる。


「ぐっ!かはっ...」


薙はすぐに立ち上がると、剣を抜く。


「こんなとこで......死んでたまるか...!」


「先の恨み...貴様の命で償ってもらうぞ!」


燕は刀を引き、薙目掛け突進する。


ギャイーン!


薙の剣と燕の刀が撃ち合う。

剣戟の火花が散ると共に、薙と燕は互いに後方に弾き飛ばされる。

燕はギリギリ着地すると刀を構える。

薙は転がると岩に体を打ち付ける。


「立て薙よ!貴様の剣舞、その程度ではあるまい」


「ぐはっ...なんだこの力は。

これが化け物に成り果てた人の力だと言うのか...」


薙はゆっくり立ち上がり剣を構えると、

燕に向かい走り始める。


「私の剣裁きは承知のはず!

到底あなたの及ぶ所ではございませんよ!」


薙は下段から切り上げる。

燕は刀を中段に構え迎え打つ。

剣が刀に触れる直前に下段からの剣をひらりと返し、

上段からの斬擊に変える。


「くっ...!」


燕は瞬間的に体を低くし、刀の柄でギリギリ防ぐ。

その瞬間、薙の渾身の蹴りが燕の腹に食い込む。


「か...はっ!」


燕は腹を押さえて二歩下がり刀を構え直す。


「王子、あなたの未熟な剣技では私を倒すことはできないでしょう。

ははははは」


「き...貴様ああ!」


燕は刀を翻し、薙の横っ腹に滑り込ませる。

薙は剣を下段からゆっくり振り上げて刀の軌道を逸らす。


ギャイーン



「ははははは。見え見えな振りですね!」


薙は剣を燕の肩に突き刺す。


「ぐああああ!」


燕は叫び声をあげて膝まづく。

薙は燕の顔を蹴り飛ばしながら、剣を抜く。

燕は転がると肩を押さえうずくまる。


「鬼はどうした?死んだのか?はははは」


薙は燕の顔を踏みつけながら嘲笑する。


「ぐっ!ぐる......ぐるるるる」


燕の眼球がみるみる黒く染まり、

薙の顔をギロリと見る。


「な.....なんだその眼は...」


薙に恐怖が走ったその時、スッと眼球の色が元に戻る。


七夜怨恨の衆しちやえんこんのしゅう


薙がさっと後ろを振り返ると、

そこに漆黒の袖を纏う艶やかな鬼の姿を見る。

一本の角を生やした鬼は刀を横に振り抜いた後だった。

薙が自分の腕を見ると、両腕が地面にどすっと落ちる。


「ぐああああ!腕がああ!」


赤黒い血を地面に垂らしながら凝視していると、鬼の瞼がゆっくりと持ち上がる。


「...燕よ、今こそ憎しみを果たすその時ぞ」


「黒羽......。

うおああああ!薙よ!死にさらせ!」


燕は立ち上がると、後ろから薙の首を横一閃に切り落とす。

ぼとっと首が地面に落ち、吹き出す血飛沫を燕は浴びる。

その向こう側の夜叉と瞳が合う。


「無理を強いるなと言うたであろうに......」


「すまん黒羽......助かった」


見つめ合う二人の瞳に、また一つ憎悪の念が宿る。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る