第7話 偽君子

「燕王子!復讐で自国の兵達を殺すなどあなたのする事ではなかったはず!

なぜです!傍らにいるその夜叉姫にそそのかされているのでしょう?

私がお助けします、共に国に戻りましょう!」


薙が燕に向かい叫ぶ。

夜叉は体を返し、燕を後ろから抱き寄せ耳元で囁く。


「燕よ...こうなる前お主は何を見てきた?

先に奴はお主を謀ったことを忘れるな......儂だけを信じよ」


薙は夜叉を睨む。


「何を吹き込んでいる!

王子!私を信じ国にお戻りください!」


燕はゆっくりと目を閉じると、

背に伝わる夜叉の胸の鼓動に耳を傾ける。

燕は夜叉にだけ聞こえる声で呟く。


「黒羽。お前の鼓動はまこと真っ直ぐに力強い......」


夜叉はそれを聞き、一言だけ返す。


「儂はもう伝えた、あとはお主の好きにせよ」


「ふっ。お前はそういう奴であったな...」


燕は微笑すると、目を開き叫ぶ。


「聞け薙よ!お前はあの時民の疑念を晴らすためと言い、私を大臣のもとに晒そうとしたな!」


「あれは...!そうしないとあなたに罪が被りましょう!」


「だが...あの時お前の策にはまっていたならばおそらく私はここに立ってはいまい」


「......聞き分けないですね。

さっさと言うことを聞いてくださればいいものを」


薙は急に表情を変える。


「なぜ私が軍師などという位におさまらなければならない?

頂点に居るべきは聡明なるこの私だ」


燕はその表情を見て目を細める。


「それが本性か......今になってようやく気づくとはの」


「仕方ない、王子にはここで死んでもらいましょう。

悪政の王家を討ち取った革命者としての功績は無くなりますが...まぁいいでしょう。

突撃部隊!総攻撃開始!」


薙が手を掲げると、森の中から大勢の兵士達が燕目掛けて走り出す。

夜叉が燕の首筋に食らいつくと、

身を少し齧り取る。


「ぐっ、何を...!」


燕が後ろを向こうとしたとき、

夜叉が燕の頭を押さえ小声で呟く。


「お主は儂を信じた、なればお主も儂を信じよ。

数が多すぎるのでな......儂が殺る」


夜叉が背後から燕の腕を掴み、刀を握らせる。


「さぁ抜け...血の獄というものをくれてやれ!」


「薙...いや偽君子よ、死にさらせ!!」


燕が刀を抜き叫ぶ。

夜叉の鼓動と自分の鼓動が重なる感覚。

その瞬間夜叉が駆け出し、突撃する兵達に向かい七夜刀を抜く。

一本角を生やし美しい袖を纏う鬼の横一線の抜刀は、一太刀で三十人程の兵達の胴を真っ二つにした。


「な......なんだと...!

一斉にかかれ!動く暇を与えるな!」


薙の表情が強張り叫ぶと、兵が一斉に夜叉に迫る。


「黒羽!!」


「はぁぁぁあ!!」


燕が叫ぶとほぼ同時に夜叉が雄叫びを上げる。

すると迫る兵達から次々に血飛沫が舞い上がる。


「ひ...ひぃああ!」


兵士が畏れをなして散り散りに逃げ始めると、薙の護衛が叫ぶ。


「薙様、陣が崩れます!お逃げください!」


「逃がさぬ!」


燕が薙に向かい走り出す。

数十人の護衛兵が一斉に燕に向かってくる。

燕は次々に首を斬り落としていく。


「待て卑怯者!お前は必ず殺してやる!」


「ちっ...!」


叫ぶ燕を一瞬見ると、薙は馬を走らせ逃げて行く。

燕は護衛を皆殺しにすると、

いまだ大軍と戦う夜叉の傍に駆け寄る。


「黒羽......私と地獄にゆくぞ」


「ふふふ......望むところじゃな、のう燕よ」


夜叉は燕に肩をトンと一度当てると微笑み、

二人は数百人の兵士達へと斬り込んでいく。





















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