第9話 もふもふと少女は目覚める。

 今日は朝から森へ行こうと思います。安全か、もう危険はないか、確認しようかなと。


 ベリーの寝顔がとても可愛い。癒しすぎる。ブルーは寝相が悪く、頭と足が逆になっている。そんな姉弟を起こし、朝食を済ませ、少女の様子を見に行く。目覚める様子のない少女を、しばらく付き添ってから、ラズベリーさんに森へ行く事を伝え、支度をしに部屋へ戻る。


 また姉弟が部屋に来たので、少し遊んであげてから部屋を出た。玄関先で、ラズベリーさんが昼食を手渡してくれた。お礼を言い森へ向かった。


 さてどうしようかな、とりあえず、今日は1人で行動しようかな、まずは池方向に行きますか。


 おや? 池に着いてもスライムの姿が見当たらない。どうしたのかな? まぁここは安全って事だね。しかし、ここの池は透き通っていて綺麗ですね。水底がよく見えますよ。魚も元気よく泳いでいる。


 しばらく留まっていると、なんと、池から魔獣が……。

 出てくるのを期待してたんですが、全く出ませんでした。


 次はゴブリン洞窟跡地へ。歩きながらきのこを採っていると、牛飼いのおっさんが牛さんを連れて歩いて来た。これから草原へ行くらしい。ちょうど良かったので、ナイフが1日でボロボロになって申し訳ないのと、とても役に立ったこと話し、お礼をした。そして、少し世間話しをして別れた。


 木々の囁き、小鳥の囀りを聞きながら歩いていると、5匹のうさぎの群れを発見。魔獣には見えない。観察してみても、どうやら普通に動物らしい。


 うさぎの肉って美味しいのかな?ラズベリーさんに料理してもらおうかな。うさぎ狩りでもしますか。


 さらに、3匹のうさぎが合流した。その中の2匹がなんと、耳の垂れた毛の長いうさぎさんだった。


 もふもふ来たーー!! 一瞬で触りたい衝動にかられた。これは狩りどころではありませんね。


 そろりと近くと、


 パチッ!!


 小枝を踏んでしまった。


 うさぎ達が、一斉にこちらを振り向くと、目が合った。お互い固まった。


 これはまずいな、逃げられる。


 しばらく沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは、垂れ耳のうさぎだった。俺に向かって飛び跳ねて来た。残りのうさぎも後に続いた。


 向かって来るなんて魔獣ですかね?ガチャはしっかり空中に待機状態だし。戦闘と判断したんですかね。


 垂れ耳のうさぎが顔に飛びついた。勢いで、倒れ込んでしまった。油断してしまった。他のうさぎ達も体にまとわりつく。なんという攻撃でしょう。まさしく魅了攻撃。一瞬で俺をメロメロにしてしまいました。


 襲っているのではなく、じゃれている。人懐っこいうさぎさん達である。もふもふ気持ちいい。柔らかくて気持ちいい。人間が怖くないのかな?これじゃうさぎ狩りなんて、出来やしません。


 このまま昼食にすることにした。ラズベリーさん特製サンドイッチとサラダ。サラダはうさぎさん達にあげた。ミルクも。あっという間になくなった。しばらく戯れてから、うさぎさん達と別れ、ゴブリン洞窟跡地へ向かった。


 ……のだけど、うさぎさん達はついて来る。ひょこひょことついて来る。離れようとしない。


 どうしたもんかな?このまま行くわけにも行かないしな~。


 名前:なし

 性別:雌 雄 雄 雄 雌 雌 雄 雄

 種族:兎 種類:キケ兎


 雌が3匹に雄5匹ね。魔獣じゃないんだねやっぱり。


【テイム】を唱えてみたけどやっぱり仲間にならない。まぁ魔獣じゃないから無理ですよね。


 立ち止まってみると、うさぎさん達も止まる。わけじゃなく、擦り寄ってる。今までこんな動物に好かれたことないんだけどな~。テイマーだからかな。先に進むことが出来ないので、一旦村に引き返すことにした。このままうさぎさん達を連れて。


 たまに後ろを振り向くと、ひょこひょこ跳ねながらついて来る。その姿がものすごく可愛い。カルガモの親子みたいですよ。


 村に着くとベリーが走ってきた。


「おにいちゃ~ん、おねえちゃんが起きたよ。え~何そのうさぎ、可愛い!!」


 ブルーもやって来た。二人にうさぎさん達の相手をしてもらい、急いで、少女の元へ向かった。


 ラズベリーさんが、少女に寄り添っていた。


「おかえりなさい、アオバさん。先程、目を覚ましましたわ」


「ただいまラズベリーさん。もう、大丈夫なんですか?」


 ラズベリーさんは一瞬、はっ! て、顔をしたけど、頬を朱に染めながら、微笑み頷いた。そして二人にしてくれた。うっかり名前を呼んでしまったけど、あの感じは満更でもないですね。笑みが出た。


「貴方が、アオバさんですね。助けてくださって、ありがとうございます。」


 弱々しい声で少女は言った。


 俺はここまでの経緯を話した。少女は話を聞きながら涙し、そして語ってくれた。


 少女の名前はシーナ・プルモア。Fランクの冒険者で戦士。ここから北へ行くとブランモンという街があり、そこの冒険者ギルドで、手頃な依頼はないか、探していた。そこで、知り合いの女性の冒険者とその仲間に声を掛けられた。ちょうどゴブリン退治に行くところだから、一緒に来ないかと。

 他の人達は知らない顔だけど、知り合いが居るから大丈夫だと、この時は思っていたらしい……。


 そしてゴブリン退治に同行することになった。


 ゴブリン退治だけなら事無く済んだ。1人の冒険者が、森の方へ歩いて行く一体の別のゴブリンを発見した。どこかへ向かっている様子だった。みんなで、しばらく後を付けてみると、ゴブリンは棲家に入っていった。


 引き返して、ギルドに報告しようと、シーナと知り合いの女冒険者が言ったが、他の仲間は言うことを聞いてくれなかった。


 たかがゴブリンぐらい余裕だろうと、高を括っていた。そのたかがゴブリンが、あんなにいるとは誰も予想は出来なかった。


 そりゃあそうですよ。俺だって、あんなにいるとは思わなかったし。


 洞窟に入って二股の所までは、ゴブリンは居なかった。右に少し進んだ時、前方からゴブリンが現れ、大声で叫んだ。それを合図に、わらわらとゴブリンが押し寄せてきた。


 ここでシーナは震えた。辛いなら話すのは止めようと言ったが、大丈夫とシーナ話を続けた。


 攻撃するにも数が多すぎて、思うように攻撃が出来ない。外に出ようにも、後ろも退路を塞がれてしまった。


 この時、みんなは気づいた。尾行がバレていたことを。


 強行突破で退路を開こうと、1人の仲間がゴブリンに突っ込むも、数の多さにどうする事も出来ず、取り囲まれ群れの中に消えていった。


 その後はあっという間まだった。わけもわからず、殴られ蹴られ、抵抗すら出来なかった。反撃する仲間もいたが……助けようにも助けられず、身動きも取れない。ここでシーナは、頭を殴られ気絶した。


 一体どれくらい気絶してたのか、何もない小さな場所でシーナは目覚めた。すぐ近くで、男女の悲鳴が聞こえた。女性の声は知り合いの人だった。


 どれくらい叫んでいたのか、シーナはただ耳を塞ぐことしかできなかった。男女の悲鳴は次第に聞こえなくなった。ゴブリンがシーナの所に現れ、殴る。防具に手をかけられ、引き剥がされそうになったので抵抗した。そしてまた頭を殴らる。意識が朦朧とする中、遠くで声がした。ゴブリンが慌てて出て言った。そこで意識がなくなった。


 なるほど、その声は俺だね。ギリギリ間に合ったわですね……。


「仲間は残念だったけど、シーナが生きていてよかった」


 慰めの言葉が見つからない。こういう時はなんて、言ってあげればいいんだろう……。


「あそこでアオバさんが来てくれなかったら私はどうなっていたか……ほんとうにありがとうございます」


 仲間の死はそうとう応えたらしく、正確に言えば知り合いの女性。ちゃんと洞窟に入る前に止めていれば、あんなことにならなかったと、自分を攻めていた。


 そこで、外の空気が吸いたいと言うので、支えながら外へ連れて行ってあげた。


 家の外では姉弟がうさぎさん達と遊んでいた。垂れ耳うさぎさんの1匹が俺に気づいて、飛び乗ってきたので、抱きしめて、もふもふを堪能した。垂れ耳がとっても可愛いんですよ。シーナも目をうるうるさせ、もう1匹の垂れ耳うさぎさんをもふもふした。

 彼女ももふもふが好きなんですね。


 村長が、いつの間にか俺の後ろに立っていた。驚いたが、優しい眼差しで、孫達を見つめていた。


 村長に、うさぎさん達をどうするか、相談した。結果、この家で飼うことになった。急遽うさぎ小屋を作ることになり、一家総出で作った。いつの間にかパパさんも加わっていた。俺が森で数本、木を伐採し、パパさんが組立てる。周りの柵をラズベリーさんと姉弟が立てる。シーナと村長はお茶を飲み談話している。


 数時間後、立派な小屋が完成。8匹には有り余る大きさ、柵に入れたうさぎさん達も嬉しそうに、走り回っている。




 ――――――――――――


 日も沈み夕食の時間になり、シーナも交えて食事をした。


 本日の食事は、魚の塩焼き。そして、白米に野菜たっぷりのスープ。魚は、ご近所さんが街に行った帰りに、買ってきてくれたらしい。塩加減が絶妙。魚の塩焼きは好きなんだよ。秋刀魚の塩焼きなんて最高。大根おろしに醤油を垂らして食べるのが好き。醤油があるか聞いてみた。するとなんと醤油があるというではないですか。これはには喜んだ。醤油あるけど魚には使ったことがないらしい。


 何よりこの世界に来て驚いたのは、お米があるということですね。何故かあるんですよお米が。ただこっちの世界でのお米は、単品では食べない。リゾットとかああいう風にして食すとのこと。


 昨日、ラズベリーさんに頼んで、白米を出してもらった。魚を口に運んでから、白米を美味しそうに食べる姿を、不思議そうに見ていたベリー。同じように食べてみたいと言うので、ラズベリーさんがベリーに白米を出してあげた。俺を真似して、ベリーも同じように食べた。


「美味しい~~!!」


 それをきっかけに、家族一同白米を食べるようになった。ちょうど今日が魚の塩焼きだから、ご飯が進む進む。魚に醤油を垂らして食べる。皆さんに醤油の使い方を教えてあげた。シーナも右に習えと白米を食べる。気にいったのか美味しそうに白米を口に運ぶ。


 少しは元気になりましたね。 よかったよかった。


 食事も終わり、居間で姉弟と遊んでいたら、シーナ

 が口を開いた。


「回復したら、街に行こうと思います」


 今回の事をギルドに報告しなければいけないと。当然です。ギルドに組みしてれば報告の義務があると思います。どこの会社だってちゃんと報告はしなければならない。隠し事や嘘は当然バレるものです。


「アオバさんはどうするんですか?」


 ラズベリーさんが聞いてきた。ですよね、いつまでもここにお世話になるわけにはいかないしな~。


 ラズベリーさんは聞きはしたものの、いつまでも居てくれて構わないと言ってくれた。家族みんなも頷いてくれた。少し考えてから言った。


「シーナと一緒に街へ行こうと思います。シーナ1人で行かすのは危険だし、心配だから」


 冒険者とはいえ女性。しかもまだFランクだし。俺が思うFランクは通常だったら、1番下でしょう。そんな少女を、半日かけて1人で行かせるわけにはいきませんね。道中何かあるか分からないから。それに、俺も冒険者になりたいし。



「やだー。おにいちゃんダメー。行っちゃやだー」


 ベリーが泣きながら抱きついてくる。ブルーも一緒に。なんて健気で可愛らしいのでしょうか。二人の頭を撫でながら俺もうるってきた。


 この日はもちろん姉弟も一緒に就寝した。

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