第7話 もふもふと殲滅。前編

「あそこ すみか」


 ゴブ汰はそう言い、棲家を指した。そこには草で覆われている洞窟があった。外には見張りらしきゴブリンが2体。


 まずはあの2体を何とかしないといけませんね。


 それにしてもくさい。多少距離はあるものの、やたらとにおう。悪臭あくしゅう。生ゴミというか、血なまぐさいというか。これからあそこに入るとなると気が滅入る。


 しかし、なんであの中に入ったんだろ人間達は。たぶん冒険者達だろう。ゴブリン退治か、やれると思ったんでしょうか。何体いるかもわからないに。ゴブリンが弱いから? だからって棲家はまずいよね。でも自信があったんでしょうね。


 追い詰めたというか、逃げられたからこんなとこに棲家作られて。 いい迷惑ですよ。おかげで村1つ滅ぶとこだったじゃないですか。まったく。


「なあゴブ汰、あの中にゴブリンはどのくらい居るのかな?」


「わからない でもいっぱい すごくおおい」


 うん、そうなんだろうねきっと。まぁ30くらいは居るかな多分。そんくらいなら、何とかなるでしょ。


「【魔獣戦闘モード】」


 ゴブ汰とライムの身体能力を上げた。


「うぉぉ」


 思わず声を出してしまった。驚いた。咄嗟に口を押さえた。

 危ない、危ない。見張りにはバレてない。

 何故驚いたかって? そりゃあね、この2匹の体が元に戻ってますから。そりゃあ驚きますとも。目の前で、あんな姿になるんですから 。

 あ~そういう事ね、本来の姿に戻るって。まったく心臓に悪い。

 ゴブ汰に指示を出した。


 さて、行きますか。


 まず、ゴブ汰が偵察から戻った、というていで近づき、油断した一体を撲殺。と同時に【捕縛の鎖】で、もう一体を叫ばれる前に最大限に締め殺す。


 なんとまぁゴブ汰のバカ力か。ゴブリンの頭を1発でかち割っていた。

捕縛の鎖の使い方、まったく違うけど、これはこれでありですね。無音だし、さすが捕縛って感じだね。楽でいいし。


 ライムに指示し、2匹の死体を処理してもらう。その間に棲家の構造を聞く。


 中に入って進んで行くと、二股に別れている。左に進んだ先に寝ぐら。右に進んだ先に、食事とかする場所になっているらしい。


 いたって単純だけど、別かれているのは微妙だね。殲滅したいんだよね。外に逃げられたら大変ですから。


 考えるまでもない。俺とライムで中に入り、ゴブ汰には、入口で待機してもらい、外に逃げようとしたゴブリンを倒してもう。これでいきますか。ゴブ汰もなるべく同胞は倒したくないだろうし。


 処理を終えたライムから、先程のゴブリンと合わせて4個の魔核コアと丸い銅の物体6枚貰った。これは通貨かな?多分そうでしょう。

 ゴブ汰に聞くと人間に貰ったらしい。

 貰った? 奪ったの間違いですよね。なるほど、ゴブリンがぶら下げてた袋に、人間から奪った物が入ってるんですね。てことは、この棲家には小金がいっぱいってことだ。

 ラッキー!ゴブリン倒して、小金ザックザク!!


「アオバ、悪い顔になってるぞ」


「―――っ!! いやいや、気のせいだし!

さあライムよ、中に行こうか。ゴブ汰、ここは任せたよ」


 そう言い、俺達は中に入った。 が、俺は凄い勢いで戻った。


「無理無理無理!! 臭い! 臭くてたまらない!!死んじゃう!!」


 どうしよう。入れないよ。臭いよ。止めちゃおうかな、なんて思っていたら、のそのそとライムが戻って来た。


「なんて情けないことか。あんな声出したら、バレるだうが、臭いくらいでなんだ!!

しっかりせい!!」


 バシッ!!


 ライムに叩かれた。


 なっっ!! 今叩かれ? スライムに? 説教くらったうえに、叩かれるとは……親父にもなぐら……。


 思わず某アニメが頭をよぎった。はぁなんてことでしょうか。まさかスライムに説教されるとは。それに、あの顔で凄まれたら、正直ちびる……。苦笑した。


「悪かった。さあ、気を取り直して行こう」


 薄暗い洞窟を進みながら、たまに自分にヒールを掛けながら進む。なんか臭いのが和らぐ気がして……。

 別れ道についた。さて、どっちから行こうか。左が寝床、右が…… ? 右の方を見ると何かが落ちていた。よく見ると腕が落ちていた。肩の辺りから千切り取られたような……人間の……。


 ……まずいな、これは全滅してるかもしれない。


 急いで、かつ慎重に右の方へ進んでいくと、道が開け、中の様子が見えた。

 覗くと、丸い空洞になっていて、ゴブリンがひしめき合っていた。何ですかこの数は……これは予想を軽く超えてた。そして、奥に窪みが2つある。真ん中には祭壇みたいなのがあり、そこには裸にされた人間の男が仰向けになっていた。


 ナイフを突き刺たてられ、それを縦に横に引き裂きながら、何やら呪文らしきものを唱えているゴブリンが居た。


 赤茶色の体。ドクロの装飾の杖を持ち、ドクロで作った被り物。毛皮の衣服。腰布を巻いている。


 名前:なし Lv4

種族:小鬼 種類:ゴブリンシャーマン

属性:火

HP10/10

MP25/25

筋力D: 精神力:D 敏捷:D ストレス:2


 あれが、ゴブリンシャーマンか。居るんでね。てことは、ホブゴブリンとかも居るのかな?


 しかし、なんてむごいことを。何をやってんだ、あのゴブリンは。それより他の人が見当たらない。あの窪みの中かな。


「ライム行ける?思う存分暴れて」


 ライムは頷いた。


「風魔法放て~」


 いきなりの声にゴブリン共は驚いて俺を振り向いた。


 ガチャから風の線が勢いよく飛び出した。

 すると、近くに居た数体のゴブリンを切り裂いた。


《固有魔法【ウィンドカッター】を習得しました》


 これは中々かっこよかった。擬音もポンッじゃなく、シュッだった。

 ライムもポイズンミストを撒き散らしながら奮闘している。


 何体かは俺に飛び乗ってくる。何体かは俺に殴り掛かる。たぶん、ぶん殴りだろうね。

 クソッ痛いじゃないか!! でも若干。ピリッて感じ。身体能力強化のおかげだね。う~ん物理攻撃も無効にしてくれればよかったのに。それでもHPの減りは微々たる物だった。


「【ウィンドカッター】【ソイルボール】【捕縛の鎖】」


 シュッ!! ポンッ!! そしてザクッ!!


ウィンドカッターは、ゴブリンを切り裂き、ソイルボールはゴブリンを弾き飛ばす。

捕縛の鎖はゴブリンを絞め殺し、俺はナイフでゴブリンの首や頭、腹などを刺して刺して刺しまくる。


 ライムの回りでは、毒で息絶えたり、もがき苦しんでるゴブリン達。


《アオバ・ミネギシのLvが3になりました》

《アオバ・ミネギシのLvが4になりました》

《【捕縛の鎖】はLv2になりました》

《【天使の慈愛】はLv2になりました》


 捕縛に慈愛も上がったね


 残りはゴブリンシャーマンと数体のゴブリン。


 ゴブリンシャーマンは、火の球を俺に放ってくる。ファイアボールかな? 連発して打ってくるが効かない。【堕天使の加護】で打ち消す。多少熱い気はするけど。


 それでも魔法を打ってくるが、お構い無しに、ゴブリンシャーマンに近づく。

 残りのゴブリンはライムが倒してくれた。


「さあ残りはシャーマン、あなただけですよ。何か言いたいことはあるかな?」


 ゴブリンシャーマンは何か言おうとしたが。


「やっぱき~かない。水魔法放て~」


 あんなむごいことする奴に聞く耳なんて持ちませんよ。


 ガチャの蓋が開き、中から水が溢れ出、膨張ぼうちょうしていく。


 ボンッ!!


 こんどはボンか。大きな水の塊になって飛んでいく。


《固有魔法【ウォーターボール】を習得しました。》


 ゆっくりとゴブリンシャーマンに向かっていき、飲み込んだ。

 そしてちゅうに浮く。ゴブリンシャーマンは外に出られないようで、もがき苦しみ、溺死した。と同時に、ウォーターボールは崩れ、ゆっくりと、ゴブリンシャーマンと共に流れに落ちていった。


 これはむごい。この死に方は嫌だ。この魔法怖い……。

 ただゆっくりだから簡単にけられそうだけど。

 あっ火魔法放つの忘れた。


 それにしてもこれは、地獄絵図ですね。気づいたら、自分も周りも血肉でぐちゃぐちゃだ。ライムも。ライム何て恐さが何倍にも増している。臭いは麻痺してわからない。

 祭壇に近づき男を見ると、片耳と舌が無く、とてつもない歪んだ顔をしていた。まさか、生きたままじゃないよね? 動いてなかったし……。残りの人は大丈夫だろうか。いやダメかな……。


 1つの窪みに近づいた。


「うっ!!」


 思わず目をらした。横たわる男女。男は両腕と耳がなく、腹も裂かれていた。そこから長い何かが外に垂れ流れていた。女は裸にされ……。

 2人とも既に事切れていた。


 この悲惨な光景を見て思わず吐いてしまった。

 これはキツいな。スプラッター映画とかよく見るから、ある程度、耐性はあると思ってたんだけど、さっきの男、ゴブリンの残骸、この男女。実際に見ると……。


 そして、もう1つの窪みに行った。1人の女性が横たわっていた。もてあそばれてはいないよだが、かなり痛めつけられている感じだった。一応脈を確かめる。


「生きてる??」


 かなり微弱だが脈を感じた。生きていた。


【スターヒール】


 何度も何度もヒールを掛けた。が、目覚めない。傷はもう癒えている。脈もさっきよりはっきりしている。精神的な問題ですね。ロール村で休ませてあげよう。よく見るとまだあどけなさが残る少女って感じかな。可哀想に。


《魔法【スターヒール】がLv2になりました》


 後は、寝ぐらか……正直もうめんどくさい。ダルい。ここまでキツいと思わなかったよ。


「アオバ、処理するか?」


「もちろんお願い。処理しながらアイテムもドロップしといて。そして彼女の様子も見てて。」


 少女を指して言った。


 ライムに【ダークヒール】を掛け、回復して上げた。


 かなり疲れた。精神的苦痛。ストレス5どころじゃないですよ。まったく。

 残りのゴブリンを殲滅してくるとライムに伝え、ふらふらとその場を後にした。


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