NAKANAORI
私は保健室のベッドに横たわり白い天井をぼんやりと見上げている。
保健室の密室の中では、何人かの生徒の寝息と保健室の先生が書き仕事を行っている気配が感じられた。静かな喧騒と賑やかな静寂に私は安堵を感じる。
ふと、保健室のベッドにこっそり持ち込んだスマホのディスプレイをLINERの通知が明るく照らした。
『ひなた、大丈夫??』
『大丈夫だよ。どうしたの?』
『藤原さん五限になってもいなくなったままだけど平気かな?ひなたからLINERしてあげたら?』
藤原さん。その字面にびくと身体が反応する。
どう返信したものかと考えているとまたすぐに通知が来た。
『友達なら言いたいこと言わないと後で後悔するかもよ?』
こいつ……
私はすぐさま返信を返した。
『…貴様…何を知っている?』
『さあね~?ただのお節介?(はあと)』
私は何となく馬鹿馬鹿しい気持ちに捉われながらもスマホのホーム画面をオフにした。
(言いたいことって言っても……)
カーテンが微かに開く音がして、私は慌ててスマホを制服の中に隠した。
「あ」
「え」
そこでばっちりと目があったのは、藤原さんだった。
何故?と驚く思いと気まずい気持ちから、咄嗟に私は身構える。
「こ、こんなところで何してるの…?」
「ご、ごめんねひなたん……その…………あ、謝りたくって……」
藤原さんはそういうと傍らのパイプ椅子にどこかから借りてきた猫のようにぎこちない動きで腰かけた。
………
………
それからの、長い長い沈黙。
手持ち無沙汰になった私は自分の手をこねこねと触った。
それでも沈黙は続いた。余りに手持ち無沙汰だったので、保健室のカーテンのシワを意味もなく数えていた。
隣に座った藤原さんはどこか緊張した面持ちで床を見つめていた。
(言いたいことって言ったって……そもそもこいつは反省しているのか……?)
私からは言葉を言い出しかねて目線を上げると丁度目が合い、藤原さんが口を開こうとしているのが分かった。
「……ご、ごめんねひなたん」
縮こまると、もとより小さい藤原さんの身体はより一層小さく見えた。
「ひ、ひなたんの制服の匂い嗅いだりとか……もうしないからッ!!!!!!!!」
制服の匂い嗅いだりもうしないからッ
制服の匂い嗅いだりもうしないからッ
制服の匂い嗅いだり
嗅いだり…
「こ、公共の場で何を言ってんだお前はあああああああああああああ!!??」
「え、ち、ちがった!?…ご、ごめん…!!」
反省とかそれ以前の問題だった。
だが、藤原さんは意を決したように再び私に向き直った。
「せ、制服嗅いでごめん……ひなたんの嫌がること……出来るだけしないようにこれからもちゃんと我慢するから…!!」
出来るだけしないようにってなんだよ!?そのちっとも安心できない感じ!?っていうか我慢したうえであの行動だったのかよ!?
ツッコミが脳内で大渋滞を起こしてしまい、私は逆に何も言えなくなってしまった。
私の絶句を先を促す肯定に感じた(としたらそれは全く大きな勘違いなのだが)のか藤原さんは勢いづいて言葉を続けた。
「わ、私変態でもいい!!ひなたんの友達でいられるなら……変態って言われても構わない!!…だから…!!」
…………あ゛?
「…い、いやいやいやいやいや待て、いい話風に言うんじゃねえよ!!??お前が変態なのはただの真実だからな!!??『変態でもいい』ってそれらしく聞こえても自己犠牲でもなんでもないからな!!!???」
私は矢も楯もたまらずツッコミを入れると藤原さんはたじろいだが、すぐに目の色を変えると食い下がるように続けた。
「そ、そりゃあ私だって胸はないし!!??…特に取り柄なんてないけど…ひなたんを想う気持ちだったら誰にも負けないよ!?」
「話が欠片も噛み合ってないんだが!?お前はまず話の前提がおかしいことに気づけ!!」
「……話は聞かせてもらった!!!」
カーテンが開かれると、そこにはベッドから起き出した生徒たちの影が見えた。
やめて。もうこれ以上ぶっこまないで。これ以上はツッコミの方が追いつかない自信があるよ?
「姉ちゃん!!受け入れてやりな!!」
「そうだ!!みんな
「あんたのツンは控えめに言って最高だぜ!!そこからは素直に仲直りしてデレることにより、俺氏メシウマ!!」
私が真っ白になっていると、保健室の先生までもがここぞとばかりに声を張り上げる。
「上半期最大級の百合の波動を感じ取ったわ!!!いいわ!!もっとやりなさい!!!」
暇なのか…?暇人なのかお前らは?
どうしてみんなこんなにノリノリなんだ?????????
私の声なき声も空しく、仲直り!!仲直り!!と皆は大合唱で煽ってくる。
そこで私の思考は止まった。
これは……果たして……おかしいのは私の方なのだろうか…?
万が一にも……そうだとしたら……
いや、そんな訳あるか。
危うく自らを見失うところだったわ。
この間、数秒間。それでも続く仲直りの大合唱に私は両耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。
ああ~!もうめんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさい…!!
「あー!!!!うっさい!!!!もう!!!!分かったから!!!!」
私は仕方なく手を差し出した。
「…え…??」
「友達…なんだろ?」
私は頬を指先で掻いた。
「制服嗅がれるのは嫌だし…………距離感近すぎるとつらくなったりするけど…………変態とか重たいとか言って悪かったと思ってる…だから……その………ご、ごめん…ね…?」
「ひ、ひなたん……!!」
藤原さんの笑顔がまた見れた。
いや、そんなことが嬉しいはずはない。ないんだけど、私もなぜだかつられて笑顔になる。
「だから……そんな私でよければ……これからもよろしく」
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