ふ、藤原はいけない子ですう……!
結局私は先生の許しを得て、体育の授業を途中で辞退して保健室で休むことにした。
その前に制服に着替えようと教室に向かった。
藤原さんとは良い友人関係を築きたいとは思っている。折角の縁だし、現実世界ではそれなりに貴重な小説友達なのだ。
そう思っている。思っているのだが……
「はあ…」
私は軽いため息と共に教室の扉を開けた。
と同時に教室の扉に頭突きをかました。
何故か。
それは眼前に広がる光景の奇抜さのために他ならなかった。
すうううううはあああああ
神様と言う存在が本当に居たのならばそいつのユーモアセンスは本当にひどいと思うんだ。
先ほどまでの私の割かし真面目な煩悶との落差によるコンボ技に私はその場で膝を折りそうになる。が、何とか堪える。
すうううううはあああああ
羞恥と憤怒で危うく白目を剥きそうになるのを私は何とか堪えた。手のカタカタという震えは止めようもなかったが。
「ふじ……わらさん……なにしてるの??」
ガタタっと机をひきずる音がし、藤原さんは驚きに目を見開き後ずさった。
「…ひ、ひなたん……!?…ど、どうしてここに……!?……あっ、こ、これは……そ、その……ち、ちがうの……!!」
何をしているのか、と私は藤原さんに聞いたが、見れば分かる。私の制服の匂いを嗅いでいる。それ以外他に何もない。ザッツ・オール。QED。
聞かなくても分かることを聞いたのは、言外にSTOPとか、WARNINGとか、HI!I’M HERE!とか伝えたかっただけだ。
つまりはもう無理。無理なのだ。
変質者。現行犯。…故にタイホ。ここに病院か教会を建てろ!情状酌量?そんなものはない!
私はずかずかと机に近づくといまだ藤原さんの手の中にあった私の制服を奪い取った。
「この…変態!!」
制服を奪い取ると、藤原さんは微かに上気した顔を見せた。
「あっ……!」
「変態って言われて微妙に喜ぶな!?」
「え、ば、バレた!?」
くそ!なんなんだこいつは!?新手の性癖のブラックホールか何かなのか!?
「この…!!やめてよ!!藤原さんって……ちょっと重たいよ!!」
カッとなって言ってから、思いのほか早く舌の上に後悔の苦い味が広がっていた。
無表情になった藤原さんの顔を見て、私はようやく気が付く。
藤原さんが私にだけ向けていた笑顔の存在を。
それは彼女が唯一心を許してくれていた私にだけ向けてくれていたものだったのだ。
やってしまった。
「ご、めん…ひな……たん……」
私の本当に言いたかったことは……こんなことだっただろうか。
言ってしまった今となってはひどく寄る辺なく感じる。
「ご、めん……本当に……ごめん……もう、しない……ごめんね……」
私が言葉探しに窮していると、色を失った藤原さんはさっさと走って行ってしまった。
ドラマだったら、ここで走って追いかけるんだろうな。
ぽつんと取り残された私はそんなことを空しく考えていた。でも現実の私は誰もいなくなった教室の中でただ茫然と立ち尽くしているだけだった。
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