第6話

落としたキーホルダーを渡し、なんとなく喋るきっかけをつかんだオレはそれ以来、ちょくちょく綾瀬川に喋りかけていた。

以前とはちょっと違い、まだ関わるなオーラが出ているもののちゃんと会話が成立するようになっていたから、マシなほうだろう。

やはり白石にちゃんと感謝しなければならない。

しかし、疑問はきえないものでやっぱり綾瀬川の悲しそうな表情が気になっていた。

それは何からくるものなのか、何によって引き起こされるのか?原因が知りたかった。

原因とやらに現実離れしているものが含まれるのだろうか?

オレには知ることもできなければ、探ることもしようとはおもわない。

ただ綾瀬川と少しでも友達ではないがそういう関係にでもなって彼女の口から聞けたらそれがオレにとってはベストなのだが。

どうだろうか……? まぁ、そういうことは多分このさき、いくらかかってもなさそうな気がしてるけど。


「やぁ、太一君。あれから三日ほどたったけどどうだったかな?」

持田は部室に入ってくるなり、フランクにそして崩れた感じに聞いてきた。

「さぁ、どうでしょうね……」

「その反応は微妙だけど、のぞみちゃんのガードが下敷き一枚分だけ下がったって感じかな?」

それは薄すぎる……。

「そんなとこだよ。白石の助言どおりにアタックかけたら、ちょっとは心をひらいてくれたって感じかな」

「うん、でもまだアタックが弱いんじゃないのかな? もうちょっと強く押しても大丈夫かもね」

持田はカラカラと笑う。

まるで他人事のように言いやがって。

「まぁ、太一君の好きなやりかたでいいんじゃないかな。どんなんなるにせよ、僕は太一君に期待してるんだ」

「期待してるって……、なにを期待してるんだよ」

「さぁ何だろうね?」持田はニヤニヤ笑う。

「ただのぞみちゃんと、太一君が仲良くなってくれるんだったらもう僕は本望さ」

「そのニヤニヤした顔をしながらいっても説得力ない」

「太一君は厳しいね」持田は両手を広げておどけてみせる。

なにをそんなにもってしてオレと綾瀬川を一緒にいさせようとしをてるんだ?

こんな考えは自意識過剰か考えすぎなのかもしれないな……。オレは少し自嘲気味になる。

「そういえば綾瀬川は屋上で双眼鏡使って何かを見てるけど何をしてるんだ?」

いつも綾瀬川がやっていることが気になっていて、本人に聞くのもなんだからなんとなく持田に聞いてみることにした。持田は数秒黙りこみ口を開いた。

「何をしてると思う?」質問を質問で返してきやがった!

「それがわからないから聞いてるんだろ」

「なんでのぞみちゃん本人にきかずに僕に聞くんだい?いつも一緒にいるの彼女にきけば早いだろうに」

「そうなんだけど、アイツは聞きづらいんだ」

「太一君はヘタレだね」

「わるかったな!そんな事どうでもいいから、とりあえず気になってしょうがないんだよ」

「気になるのか……。そうかそうか。じゃあ教えてあげない」

持田はニヤニヤしながら手元においてあるコーラの缶を手に持つ。ふと持田の雰囲気が棘のあるものに変化したのに気づいた。笑ってはいるがこれ以上踏み込んでくるなといわんばかりの感じでオレはビビって言おうとした言葉を飲み込んだ。

「この件に関しては言えないし、太一君には関係のないことだよ。それに太一君が知らなくていいこと。知らないほうが幸せってこともあるだろう」

もう遠まわしに関わるなってことを言ってる。そういうと持田はコーラを一口飲んだ。そしての缶を置き、オレを見る。

「ただひとつ言えるのは異世界人に関することだよ。まぁ、太一君はのぞみちゃんと仲良くなることだけを考えておいてよ」普段の持田のゆるい雰囲気に戻った。

初めて持田の怖い部分に触れた。この人は本当によくわからないしなんだか実体がないような人に思えた。

「わかりましたよ」オレは持田のようにおどけたように言う。

「そっか、それなら良かった」持田は笑う。白石のキーボードを打つ音が静かに響いていた。


しかし、持田の言うオレ知らなくていいこととは何なんだろう。綾瀬川、持田、白石たちは組織の人間であり超能力者で敵対する異世界人を監視、殲滅するため行動していると出会ったときに言っていたのは覚えている。威圧するほど何かを秘密にしたいとおいうことは何か深い裏があるのだろうか?それなら何で最初に秘密をばらしたのだろう?

確かにオレは部外者で関係のない人間、いや……、巻きこまれたのは確かだし、綾瀬川と行動するようになったのもその秘密を他に口外しないようにするためを目的としていたはずだからすでにオレは何かに関わっているはずなんだ。持田の言っていた異世界人とやらはオレが見たのは綾瀬川とはじめて出会ったときすでに死んでいた。それに最初の出会いから持田たちに関わって以来、その敵対する異世界人は登場しないし見たこともない。それに自分たちには超能力があると白石だけだが見せてもらったのも覚えている。まるで信憑性がないことばかりでいまだに信じられない。もし本当にその話が真実ならなんのために綾瀬川は屋上に上がって双眼鏡で遠くを見ているのか?この街のどこかに持田がいっていたことに関係することがあるのだろうか?

オレ自身頭では関りたくないと思っているが、知りたいという好奇心から首を突っ込みたくなる。本当に気になる。綾瀬川のあの表情も。


疑問を頭の中に抱えこんだままオレは部室を後にし、屋上へと足を運んだ。

ドアを開けると変わらず綾瀬川がフェンス越しに立っていた。グラウンドからは野球部の掛け声が聞こえてくる。オレは綾瀬川のそばまで歩き、近くに座った。綾瀬川は何も言わずに双眼鏡を覗き続ける。挨拶はいつも無いためこれが自然。来る前に自動販売機で買ったコーヒーを開け一口飲み、地面におく。頭の中では疑問が渦巻いているがあえてそのことは口に出さないように自分をセーブしオレはいつものように綾瀬川に適当に話しかけようとして顔を上げる。

「末原君、質問があるんだけど」

顔を上げたと同時に綾瀬川は口を開きオレを見る。これが噂の先制攻撃というやつだ。

オレは少し拍子抜けしてしまい、口を開いたまま綾瀬川を凝視し固まる。

「何、その顔は」

「いや、綾瀬川の方から話しかけてくるなんて珍しいなと思って」

素直な感想を言うとまさにその通りなのだ。いつも話しかけるのはいつもオレで、会話になっているときもあるが綾瀬川は基本おしゃべりではないのか、屋上で何かを監視しているときも教室にいるときも彼女はオレに話しかけてこない。いや、ほとんどのクラスの奴だとか持田に対しても彼女は話しかけようとせずだからなのか孤独を貫こうとしているのかそれとも対人恐怖症なのかさえわからないのだ。

「そうかしら?」綾瀬川はシレっという。

「そうだよ。じゃなきゃこんな反応しねぇよ」

「そう」綾瀬川は興味なさそうにポツリと相槌を打つ。

「で、その質問っていうのは何なんだ?」

「末原君はこの場所にいて楽しい?」

「はぁ?」オレは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「ど、どういう意味かよくわからないぞ」

「この場所でただ毎日を過ごして何も悩みは生まれないのかなって」フェンスの向こう側を見ているが綾瀬川の横顔はあの悲しそうでなんともいえない表情をしていた。それをみたオレは少し動揺する。

「自分がいつも同じ場所にいてこれから先、今と同じように時が過ぎていくのかなと思うと少し憂鬱になるの。末原君はそういうことを考えたりする?」

綾瀬川はオレのほうをみていった。

「…………………」オレは黙ってしまう。

綾瀬川はいつものようにどこか遠くを見るのではなくオレの方に向いていた。綾瀬川は何か期待しているのだろうか?

少しの沈黙の後、オレは綾瀬川の質問に答えた。

「わかんねぇな……。たまに考えたりするけど普段は考えないようにしてるといったらいいのか、あまり考えたりしないというか……」あいまいな答えを綾瀬川に投げ返す。

「…………」綾瀬川も数十秒前のオレみたいに黙り、こっちを見てくる。

「ほ、本当にどうしたんだよ? 今日なんだか、変だぞ?」視線に耐え切れなくなったオレは綾瀬川に質問する。

「私が悪かったわ。今のは軽い冗談よ、忘れて」

そういうと綾瀬川はまた黙りフェンスのむこう側を向いた。

「…………」

オレはよくわからずに綾瀬川の方をただむくことだけしかできなかった。

よくみると彼女の顔はいつものような無表情に近い顔をしていた。

白石が前にいっていた言葉が頭に浮かんだ。

『あなたは綾瀬川のぞみのことを勘違いしている』と。

やはり出会って一ヶ月は過ぎたがわからないことだらけだ。あぁ、それは当たり前か。

白石の言うように綾瀬川のことを理解して疑問を解消することができるだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る