雷光のアインヒューズ -AINHUZE OF THE THUNDERBOLT-

吾妻守

第0章 はじまり

00 プロローグ

 高い天井に膨大な数の本。室内は見渡す限り本棚で埋め尽くされており世界のありとあらゆる歴史や文献はここに全てが集うと言われているほどである。


 エルピアが誇る広大なナディア図書館だ。

 その図書室に男が二人、机を挟んで座っていた。


「可笑しなものだ」


 気だるげで長いボブカットの男が小難しい顔をして読みかけの本を付箋もせずに挟むようにしてパタンと閉じる。


向かいの席の顎髭を蓄えたスキンヘッドの男がそれを見て笑う。


「全くリテロは。昔からそう硬い顔をする」


「私は今世間で言われている『憑依』は憑依ではないと言いたいんだ」


 かつては憑依と言えば様々な物質や人に霊や魂が乗り移ることを指すのが一般的だった。しかし近年では『本来そのものに備わっていない力を付加する』能力を指して憑依と言うことが多くなっていた。


「それを『禁忌の業』を使うお主が言うのか――それに世間では数百年も前からその呼び名で定着しておる」


「――ところでデリー」


 ボブカットの男、即ちリテロは何かを思い出したようだ。


「お前が言っていた『雷光の憑依使い』とやらの話だが――」


「そうだそうだ。そのためにお主をここに呼んだのだった」


 上に向けた左の掌を右の拳でぽんと叩くデリーを見てため息をつくリテロ。


「まあそうため息をつくでない。彼は今まさにこの地ルーデリアにいるのだ」


「なに!? どこにいるんだ!?」


 珍しく取り乱し机に手を叩きつけ慌てるようにして立ち上がる。眉間に皺が寄り彼の中の焦燥が表情全体に表れていた。


「確か……四番通りの路地裏の喫茶店テスラに――」


「じゃあ今すぐ行くぞ!」


 それを聞くや否や走り出すリテロにそれを急いで追いかけるデリー。端から見れば良い年した男二人が図書館の中で人の気も知らず走っているただの迷惑者である。


「リテロ! まだ準備が――」


「そんなものしている余裕などない、一刻を争う自体なのだ!」


 二人は広大な図書館の出口目掛けてひた走る。周りの白い目を気にすることもなく。


 リテロにとっては『雷光の憑依使い』は自らの抱いているとある疑問を解決する重要な鍵となりうるのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る