憧れについての検討
「おはようございます、晴野さん」
「おはようございます、天崎さん。あの、土曜日はご迷惑をおかけしました」
「お気になさらず」
月曜日の朝。天崎さんの出社とともに駆け寄って謝罪する。天崎さんはさらっと流して自席に向かってしまった。もう少し言いたいことがあったはずなのになにも言えない。なにが言いたかったのかもうまく思い出せない。しょんぼりしたまま自分の席に戻って仕事を始めた。
昼休み開始と同時になんとか自分を奮い立たせて天崎さんの元へと向かう。
「天崎さん、お昼ごはんを一緒にいいかな」
「構いませんけど私お弁当ですよ」
「じゃあ私はなにか買ってきます。先に食べててください」
急いで近所のコンビニに走って適当に買って戻る。天崎さんの席の隣が開いていたのでそこに腰を下ろした。
「天崎さんの家、すっごいきれいなんだね」
「散らかっているのが苦手なんです」
確かに天崎さんの机の上もとても片付いている。仕事中もノートパソコンとノートが一冊にボールペン1本とかその程度だ。
「えらいなあ」
「えらい、ですか?」
「うーん、すごい、でもいいんだけど。自分にとってベストな状態を保ててることが羨ましい、というか」
天崎さんはよくわからないような顔をする。自分でもなにを言っているかよくはわからない。
「天崎さんの家にお邪魔してすごく落ち着いたんだよね。いい部屋だなって」
「晴野さんの家はそうではない、と?」
「うん。全然そうじゃない。散らかってて、帰宅するとため息が出る」
それは、と天崎さんは言葉を選ぶように逡巡する。
「良いように片づけないのですか?」
「そうしたいんだけど。そう、したいんだけど。なにをどうしていいかわからない……」
本当に私はなにを言っているのか。でもわからないものはわからないんだ。一体なにをどうしたらあの部屋が居心地のいい部屋になるのか。
なにも言えなくなってしょんぼりする私に天崎さんは無表情でこう言った。
「今度、また家に来ます?」
「え、いいの?」
「大したもてなしはしませんけど」
「いえいえ、とんでもない! あ、じゃあ家の近くでおいしいって評判のケーキとお菓子を持っていくね」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
もう一度天崎さんの部屋を見ればなにをどうすればいいのか解決の糸口が見つかるかもしれない。それに天崎さんが部屋のきれいをキープするためにどんなことをしているかも聞いてみよう。
少しだけ前向きな気持ちになって食事を終える。私は変わることができるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます