回想
1年半くらい前に、僕は苺ちゃんと出会った。
会社の付き合いで訪れたいわゆる女の子のいる店で、苺ちゃんは働いていた。
特に好きではなかった。先輩がどうだと言ったから、指名した。
結局閉店までいて、家に誘ってみたけれど笑顔で断られた。
「今日は帰ります!」
そんなに元気にいわなくても…。そう思ってタクシーに乗り一人で帰った。
それからちょくちょく苺ちゃんは僕に連絡をくれた。営業だ。たまに会いに行く、その程度の関係だった。仕事を続けるうち、苺ちゃんは順調に太っていった。僕はスレンダーな人がタイプだから、好きになったりはしなかった。
3月になり、苺ちゃんは就職とともに卒業した。いつ連絡したかは覚えてないないけれど、4月の後半に就職祝いに夕ご飯を一緒に食べた。僕は仕事柄おいしい店を知っていたから、適当にいい店を選んだ。
苺ちゃんの話す仕事の話は、僕には全く魅力的じゃなかったけれど、彼女が納得しているならと黙って聞いていた。それから次に会う約束をした。
5月、二人で出かけた。苺ちゃんが好きなYoutuberがコラボしたものがあるとか言って、渋谷で待ち合わせをした。苺ちゃんは方向音痴で会うのに時間がかかった。それから、二人が好きなドラマの特別展示を見に行った。この時から、苺ちゃんからちょくちょく連絡が来るようになる。なんだか面倒臭いと思って、僕は自分から連絡をしなかった。
6月あたま、僕の誕生日があった。苺ちゃんから、祝いたいと言われて、一緒にケーキを食べて、適当に横浜をぶらぶらした。誰かに祝われる誕生日は久しぶりだったし、楽しかった。
7月、苺ちゃんが行きたいと言った、テーマパークに行った。混雑していたが、落ち着いた展示が多く、熱い中楽しめた。苺ちゃんはしきりに写真を取っていた。気分で、服装を褒めたら苺ちゃんの顔が真っ赤になって面白かった。化粧が落ちちゃうと慌てていた。
8月、友達と遊んだ時に、苺ちゃんの話をしたら、あり得ないと非難された。女の子にそこまでされてなんとも思わないのかだとか、キープしてるのかとか言われた。楽しいから会っている、それだけではだめなのかと思った。
8月後半、僕は忙しくて、デートの場所を苺ちゃんに一任していた。苺ちゃんからの連絡をうっかり既読無視していて、当日会ったときに怒られた。集合時間と場所を当日に返信するなんて、しかも遅れて来るなんてと怒っていた。ご飯を食べながら、昨日後輩と遊んだ話をして、苺ちゃんが予約してくれたプラネタリウムを見た。いつも通り、明るいうちに苺ちゃんと帰りの電車を待っていた時だった。ホームのベンチに座った苺ちゃんが、言った。
「本当は今日告白するつもりだったけど、やめるね。今度綺麗な景色に連れて行って。そこでにする」
9月頭、天気はあいにく曇りだった。僕は苺ちゃんをスカイツリーに連れて行った。景色は真っ白だった。そして、予約したプラネタリウムを見た。苺ちゃんは笑っていた。それから夕飯を食べて、帰り道を歩いていた時、わざとらしく思い出したように言った。
「そういえばまだ綺麗な景色見てないね」
苺ちゃんをスカイツリーの下に連れて行った。真っ暗な夜に、ライトアップされたスカイツリーが立っていた。そこで苺ちゃんに告白して、付き合うことになった。帰りの電車で、まさか苺ちゃんと付き合うとは思ってなかったとか、パブの常連さんに話を聞いてもらったとか、色々話してその日はさよならした。
苺ちゃんと付き合うかどうかは、正直すごく悩んだ。僕は苺ちゃんと出かけるのは楽しくて好きだったけれど、スレンダーな人がタイプだし、色々と不安があったからだ。でも、これは好きなのだろうと思ったから、付き合うことにした。苺ちゃんは、付き合ったからといって頻繁に連絡してきたりはしなかった。
苺ちゃんは、告白したあと、その場で一緒に写真を撮るのを嫌がっていた。一枚撮った写真の映りが不細工だったから、もう一枚撮ろうと提案したが、不細工でいいと言って歩き出してしまったから、記念写真には笑顔の僕と不細工な苺ちゃんが映っている。
僕は時々その写真を見返している。
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