□3-1
□Ⅲ
[小茉莉3]
「なんやねん……これ……!」
ファイルの中にあったのは、数枚の写真だった。
全身に包帯を巻き、あざだらけになった大人が映っている。男は岩のような筋肉を持つ男だった。しかし、彼はまるでお化けにおびえる子供のような目をして、ベッドの上で丸くなっている。
「これは三年前、石川県でとある中学生を強姦しようとした男だ。だが、未遂に終わった。確かにこいつは同情の余地のない男だ。警官である以上大きな声では言えないが、こんな風にボロボロにされても文句は言えないだろう」
「だったらなにが問題で、今回の件とどう関係してんねん」
「彼をこうしたのは、被害者の中学生なんだ」
豊臣がファイルのページを一枚めくる。そこには見覚えのある女の子の写真があった。彼女は長い前髪で目を隠し、自信なさげにうつむいている。
「如月……文乃……」
写真の下に印字された名前を、私は何度も見返してしまう。
「君も知っているかもしれないが、素手で襲ってきた相手に拳銃を何発も打ち込むなど、自己防衛の度を越えた抵抗は、過剰防衛という罪に問われる。当時の彼女も、それに該当するのではないかという話も出た」
豊臣の声は淡々としている。だが、そうして語られる事実を聞いているだけでも身の毛がよだつ。
「だが、結果として過剰防衛には値しないと判断された。抵抗は素手で行われており、
彼女にとってこれは、いとも簡単にできる行為だったからだ」
ファイルには、医学の知識がなくとも、はっきりと骨が折れていると分かるレントゲン写真も綴じられている、
「この一見だけではない。彼女は小学三年生の時に、同級生五人にも重傷を負わせているんだ」
頭の中には、あの内気な少女の姿がはっきりと焼き付いている。彼女と、今説明されている物騒な事実がまったく結びつかない。
「そして、あの誘拐事件の際も、実行犯の一人を返り討ちにしている。その当時、まだ小学六年生だったにも拘わらずだ」
豊臣がファイルを閉じる。彼も、そこにある写真を必要以上には見たくなかったのかもしれない。
「彼女が水族館で監禁されている間に高峰星良さんと親交を深めていたのは分かってる。調書に残っているからね。となると、文乃さんが灰土くんを追いかけたのは、星良さんの敵討ちの可能性もあるわけだよね」
その通りだ。豊臣の推測は正しい。彼女は、ウノとサノが高峰星良を殺した犯人だった場合、彼らに復讐するとはっきりと宣言していた。
私はその会話が行われている間、ウノとサノの無罪を信じる一方で、もし万が一のことがあってもあの気弱な女の子が、彼らにそんなことを実行できるはずがないともたかをくくっていた。
「もちろん、彼女は今現在、不幸が重なった状況にいる被害者だ。だが、もし高峰星良のために灰土くんへの報復を考えているのだとしたら、止めなければいけない」
耳鳴りがする。取調室の中の空気が、途端に薄くなった気がした。
「それができてしまう才能が、彼女にはあるんだ」
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