第23話 酔っぱらい

 二人はへべれけになって、そのままトルコ絨毯に寝転んだ。

「畜生、また投了だ!」

「ああ楽しい、こんな飲んだのは久々だよ」

 蛍は仰向けのまま言った。

「飲み碁なら勝てると思ったのになぁ」

 滝は悔しそうに石を片付ける。

「朝まで打とうぜ」

 蛍はそう言うとテーブルに片手をついて、やっとのことで起き上がった。

「あれ? 何か入ってるぞ」

 滝は黒石の中に光るものを見つけて、じゃらりとまさぐる。

「おかしいな。そっちには何も入れてないぜ」

 白石に隠してあったUSBメモリも、引き出しに片付けた。もう何かが入っているはずはない。

「ほんとだってば。これ……」

 滝の手には二センチ程の銀色の筒状の物が握られていた。


「何だ、これ?」

 蛍はミネラルウォーターをがぶ飲みし、目を細めてそれを凝視した。

「お前の碁石だろ、本当に知らないのか?」

 滝はそれを蛍に渡す。

「知らないよ」

 銀色の筒状の物は真ん中に切れ込みがあり、開けることが出来そうだ。

「ロケットペンダントの先みたいだな。開けていいか?」

「ああ」

 中には付箋のような細長い紙切れを巻いたものが入っていた。広げてみると、そこには住所と電話番号が記されている。

「なんだあいつ。吹っ切れてねぇじゃねえか」

 滝は一目見て、右手で両目を押さえてふっと笑った。

「これは……まさか」

 蛍は滝を見た。心拍数が跳ね上がる。

「あいつはこのペンダントトップに賭けたようだぜ、蛍」



 蛍はその場から動けなくなった。彼女がこれをここに隠す機会は、別れを告げに来た時しかなかった。

「まさか、那智さんが?」

 自分は彼女に会いに行っても良いのだろうか……。

「おい、二冠の東雲プロ、しっかりしろよ。あんなに知りたがっていた連絡先だぜ」

「これは本当に彼女の自宅の……?」

「早くしないとバスが終わるぞ。俺は飲酒してるからな」

 滝はふふんと笑うと、そのままソファーに寝転んだ。蛍は財布とスマートフォンを片手に玄関を飛び出した。


 地蔵前に着くと、終バスは出たところだった。

「待ってくれ!」

 叫んだが、バスは無情にも走り去った。彼は、よろけながら住所の方角へ走り出した。酔いのせいか、走れメロスの一節がずっと頭の中でリフレインしていた。









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