第13話 滝とユミと蛍
「滝……宗次郎くん?」
蛍は信じられないといった表情で立ち上がった。
「はい、滝 宗次郎は俺ですが」
背後から、栗色の巻き毛の可愛らしい女性がひょこっり顔を覗かせた。彼女はピンクのふわりとしたワンピースを着ている。
「きゃっ、東雲様!」
「えっ、東雲プロ?」
彼女の言葉に滝は驚いて、まじまじと彼を見つめた。東雲プロは確か滝の二つ年上であるが、前髪と私服のせいか同い年ぐらいに見える。
「ええ、僕は東雲 蛍と言います」
「本物だ。いつもテレビで拝見してます」
滝は深々と頭を下げる。
「私、碁が打てる地下アイドルやらせて貰ってます、ユミといいます。あの、握手してもらえますか?」
「あ、ああ。どうも」
蛍が右手を差し出すとユミは嬉々として、両手でがっちりと握手を交わした。
「実は紀伊さんと連絡をとりたいんだが、スマホが繋がらないんだ。恥ずかしながら僕は彼女の自宅の場所や電話番号を知らなくてね」
蛍は人差し指で頬を掻いた。
「そうですか」
滝はポーカーフェイスで答えた。あの後仕事が立て込んでいて那智には会えていない。スマホの番号は変えていないだろうから、着信拒否にしているのかも知れない。
「君が親友だと聞いていたので、会いたいと考えていたところなんだ」
「確かに那智とは親友ですが……」
そう前置きして、滝は続けた。
「最近忙しくて彼女とは話せていません。親父さんになら会いましたが、元気なようですよ。彼女は情の厚い子です。拒否しているなら、何かのっぴきならない事情があるのでしょう」
「紀伊さんの自宅の場所を教えては貰えないかな?」
「それは、すみません、個人情報ですから」
滝は心が痛んだが、教えるわけにはいかない。
「僕はどうやら、彼女のアーモンドチョコがないと勝てないんだ」
蛍は発してから、自分の言葉に苦笑した。確かに負けが続いているが、一体何を言っているんだ。
「何ですか、それ……チョコなら、俺らのを差し上げますから、しばらくそっとしておいてやってくれませんか?」
滝の言葉にユミもうなずいて、そっとチョコの包みを差し出す。
「何か知ってることがあれば、教えてくれないかな?」
彼は切実な表情で言った。
「何も知りません。俺達もう行きますので」
「待って。これ僕の連絡先です。何かわかったら、教えてもらえないかな?」
蛍は名刺を差し出した。
「わかりました。でも、俺は那智の味方なので、協力出来るかはわかりませんよ」
「ありがとう、恩に着る……」
滝が名刺を受け取ると、蛍は頭を下げた。
「いちファンとして応援しています。元気出して、次は勝ち星をあげてください」
「チョコはあげます。頑張って勝ってね、東雲先生」
ユミはニコッと微笑むと、チョコレートの包みを蛍の手に握らせた。
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