第22話 空旅の談笑
気流に乗って空挺便の移動が落ち着くと、乗客達がようやく口を開いて、待っていたかのように談笑が花開いた。
「私はゴルドバンからね、ちょっとレブレグランドの観光に来たんですけれどね」人間種の富裕な商人と言った風情の壮年男性が嬉しそうに話し出した。「朝焼けのユトラシア天氷山が本当に綺麗でしたねえ、後は森林浴や温泉で身も心も癒やされたような気がします」
「何だって!?ゴルドバンって、神様がいるそうだけれども、噂は本当かい?」同じくらいに富裕な商人と思しきオーガ族の老婆が不安そうに顔色を変えた。「ゴルドバンの神様は生贄を欲しがるって……」
何だって、とざわめきが広がった。だが、いやいや、と壮年男性は大笑いした。
「ああ、それは言い方がよろしくない。生贄に選ばれるのはね、いつだって、もう召されてもおかしくないご年配の方ばかりでね、この方々だけが神殿に入ることが許されるんです。神様は『不老不死』ですけれどね、人が面白いとおっしゃって、特に人生の経験談がお好きなんですと。それでご年配の方ばかりを、ね。もし私が選ばれようものなら大騒ぎですよ、何て名誉な事なんだ、素晴らしいんだ、お祝い、宴会、お祭りです。……正直ね、ゴルドバンではどんな出世や栄誉や富よりも、全うに人生を生きて、神様のお話相手に選ばれる事の方が羨ましがられるんです」
「おや、ゴルドバンの宗教は恐ろしい宗教だと思っていたら、そうでは無かったのか」どこぞの貴族の御曹司と思しき人間種の青年が驚いた顔をする。「過去に何度か神罰でゴルドバンの敵国が滅んでいるから、てっきり恐ろしい神かと思っていたのだが」
「多少の悪事なら神様は目をつぶって下さいますよ。でもね、人としての一線は越えちゃいけない。そこだけですよ、気を付けるのは。それに、今時ゴルドバンに戦争を吹っ掛けるような国も無いでしょう」
「そうか、なら別に良い」と青年は目を閉じた。
「……宗教で思い出した、近頃怪しい宗教が流行っているとの噂、ご存じか?」
傭兵と思しき屈強な天使族の男が顔をしかめて言い出した。
「怪しいの?よもやゴルドバンの神様では無いでしょうねえ?」
先程の壮年男性が、むっとした顔をする。
「無論違う。……何でも【スキル所持者】のみに『選ばれた人間になりたいだろう』と勧誘を仕掛けてくるのだと。そして断ると襲ってくるとか……」
「何ですかそれは」青年が目を開けて不気味そうに、「そんなの、聞いた事もありませんが……」
「最近、ビグレンガで活発に活動しているようなのだ。それがしの知人も襲われたと言っていた」
「ビグレンガで?そんな馬鹿な事をよりにもよってビグレンガでやる阿呆がいるのかい」老婆がぎょっとした様子で、「そんな真似をしたら、ビグレンガを敵に回すのと同じじゃないかい……?」
「ううむ……確かに。もしかすれば【スキル所持者】を勧誘しようとするどこぞの国の仕業かも知れぬな」
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