第20話 数多の国々

ヴァッシーノ達と名残を惜しみつつも、詰め所から街中に入ると、どこもかしこも人で溢れていて、真っ直ぐ進むのも大変だった。特にドラゴン族が多い。空挺便に携わる者がこの都市には多いのだろう。

「もし国境防衛戦に負けていたら?」

人混みをかき分けながら、Cは訊ねた。ギルは少しもためらわずに言った。

「この街も略奪の後、破壊されていた。俺は20年前の敗北の前に国境線を戻した。でも、リ・パラリア山脈に許可無く人間種が立ち入るな――という状態に戻せただけだ。前回の敗北の際は山脈を越えた先の町村が無数に潰された。それから更に範囲は広がって……」

また、20年前の悲劇が繰り返される。

「だが、今日のアレで復興の糸口が見えた気がする――だろ?」

「……まだだ。まだ課題は多々ある。本来ならばヴィルバルド帝国を潰して人間種同士で争わせれば、魔物種はしばらく平穏なのだが……『しばらく』じゃあな……」

人口差は歴然としている。人間種が圧倒的に数が多い分、すぐに別の国が興るだろう。

「ヴィルバルド帝国を潰したとして、次はどの国なんだ?」

「最大手はデオラ・ラグーン共和国だろうな。人間種の軍事強国だ」

「さっき言っていたゴルドバンってのは?」

ふと――ギルが懐かしそうな顔をしたのを、Cは見逃さなかった。

「領土境にビグレンガを擁する王政国家だ。ゴルドバン神聖永世中立王国。どの国とも盟約を結ばず、結ばれず、独立を維持している大陸最古の多民族国家でな。魔物種も人間種も神の名の下に同じ権利と権限を与えられ、義務と法を課せられている」

「ふうん……神か。神ねえ。俺としては、おっぱいじゃねえなあ」

若干疎ましそうにCは呟いたが、

「いやいや、おっぱいだ。神族とは全く別種の神だ、趣味は人身御供と神罰執行と闇夜の散歩。どうだ、おっぱいだろう?」

ギルはやや呆れたような顔をしてCを見つめた。何で忘れているんだ、そんな事を言いたげな顔をして。

「神罰に人身御供に闇夜……何でそれがおっぱいなんだ?」

Cは戸惑ったが、ギルは答えず、意味深にため息をついて、

「この先の塔が今日の空挺便の発着所だ。行こう」

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