第15話 可愛い妹、大事な人々

 二人は早朝、まだユトラシア天氷山の頂がほんのりと暁に覆われ始めた頃に出発した。

「元気でね、兄貴!Cさん!」

ルエが少し寂しそうにギルに抱きついて、くすんと鼻を鳴らす。

「一人ぼっちにして済まないな。だが俺達は必ず帰ってくる。約束できる。俺とCが手を組めば無敵だからな」

「無敵か。――格好いいな!」ルエは兄から離れて、いつものように陽気に笑った。

「あなた方が留守の間も、ルエちゃんは我が家で大事にいたします」とメイド長のフィウンナが上品に頭を下げた。

「ええ。どうか心配なさらないでね」デーン・グラボーン、グラボーン家の3女がしっかりとルエを抱きしめた。

ギルは深々とお辞儀した。Cも倣う。

「ありがとうございます。……行ってきます」


 「ギル、寂しいんだろう」

遠ざかるデルフィンデライの城壁と街並み、曙光に照らされていく美しい光景を背後に、ふとCが言った。

「寂しいさ。俺は代価無く親切にされると、相手を大好きになってしまう。損得で俺を計らない人を、裏切ったり騙したりするのが辛くなってしまう。デルフィンデライには、そんな人が沢山いるんだ」

ギルはほんの少しだけ、心底から辛そうな顔をした。しかしCが何かを言おうとする前に、

「だからこそ、お前の喪った記憶――『方舟』人類総改換計画が、もし彼らに害となるものだった場合に俺は対応しなければならない」

決然と言った。Cは、ああ、と肯く。

「あれから何かを思い出せたか?」

「……。ダメだ、何も思い出せない」

「そうか……」

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