第16話 川辺にて、解説
「自由都市ビグレンガについてだが」
せせらぎの軽やかな清流と座り心地の良さそうな岩を見つけた二人は、川魚を捕まえて焼いて昼飯にしていた。
「正式名称は『ギルド直轄武装自由都市ビグレンガ』と言う」
ハーブソルトをかけただけの、取りたてで焼きたての川魚の熱々の淡泊な身を噛みしめると、じんわりと旨味が体中にしみてくるようだ。
「すっげー物々しい名前だなぁ」
Cは生木と乾いた木を上手く組み直し、煙を少なく、かつ均等に川魚が焼けるようにたき火を整えた。
「物々しいのも当然だ。名前の通りに『自由協定ギルド』が全ての権力を握っていて、このギルドがレブレグランドやヴィルバルドなどの諸外国がビグレンガへ害意ある内政干渉をしたと判断すれば即座に反撃的軍事・経済行動を開始する。その結果、これまで幾つもの国が呆気なく滅んでいる。世界的な大国も、何つか滅んだ」
ギルはまるで横笛でも吹くように上品に川魚を食べている。Cはモグモグと噛んでいたのを止めた。
「と、都市一つにどんだけ軍事力と経済力があるんだよ……」
国家と都市。規模の大きさ、国力の格差、その他諸々をどう考えても国家の方が上であろう。
しかしギルは造作もないように、説明した。
「『傭兵』だ。【刻印者】のみがなれる、ギルドに所属する自由兵。その強さは一騎当千どころの話ではない。戦闘前に敵の士気がくじけて降伏した事例も多々ある」
そうか、とCも納得する。
【SSスキル所持者】を例えるならば、魔王級である。魔王が10人、いや20人、徒党を組んで敵としていれば、軍隊だって逃げたくもなるだろう。【SSスキル所持者】はやろうとすれば地形さえもたやすく変えられるのだから。
「んじゃ、経済力は?」
兵力は分かった。だが兵力を維持するには、金がいる。その金をどこから集めているのだろう。
「ビグレンガはどの国にも属さず、どの国の支配も受けない。魔物種も人間種も知った事ではない。ただ貿易都市、銀行としては大きく窓口を開けている」
Cはバリバリと川魚の骨を食べ始めた。
「……国際貿易の収支やらマネーロンダリングやらで黙っていても金は貯まっていくのか。その金に伴い、世界中の情報も集まるだろうし」
兵力、金、情報。つまり、武力、財力、知識。その全てをビグレンガという都市が世界規模で抱え込んでいるのだ。
恐ろしい話だとCは思った。うへえと内心で舌を巻きつつ、綺麗になった木串を火に突っ込んだ時、ギルが追い打ちをかけた。
「まだまだ、ある。ビグレンガはギルドへ莫大な金銀を支払うことと引き換えに軍需物資を用意し、要望あらば傭兵も貸与する。この大陸では、国家が戦おうと思ったら第一にビグレンガに相談するんだ。……この前の国境防衛戦の時も俺は武器調達にビグレンガを使った」
んん?Cは浮かんだ疑問をそのままぶつけた。
「何でビグレンガに相談するんだ?自国で軍備増強とか研究とかしないのか?そっちの方が後々都合が良いだろうに」
ギルならば平然とそちらを選ぶだろう。ギルは、計算高さでは化物じみているのだ。
「モノが違う。武器一つ、防具一つを取っても性能が自国で製造したものとまるで比較にならない。ビグレンガにはお抱えのドワーフ族の精鋭職人の自由自治区があるんだが、そこの技術レベルがそこら辺のドワーフ族のとは桁違いなんだ」
ギルは、心底羨ましそうにため息をついた。
「真似したくても、出来ないのか!?――そこまで違うのか!?」
Cは驚いて、危うく川魚を焦がすところだった。
「ああ。散々研究したが、技術的に手が出なかった。ちなみに、職人を拉致あるいはスカウトしようとした国はビグレンガの敵国と断定されて幾つも滅んでいる」
だから俺も最終手段が取れなかったんだ、とギルは物憂げに呟いた。
「お前の借金ってもしかしてその武器代?」
Cが言った冗談にギルはやっと笑顔になって、
「馬鹿言え、先に払ったさ。俺の勝手で国に借金させられるか」
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