異世界の旅は楽しいで章

第14話 新たなる出立

 「C、自由都市ビグレンガへ行こう」

ルエと一緒に悪魔アップルを使った巨大パイを見事に焼き上げて大喜びしているCがその言葉を聞いたのは、その後の午後のティータイムの際であった。

「えっ、兄貴、仕事はどうすんの?」

ルエがフォークを片手に素っ頓狂な声を上げた。

「元々勇者一行の件で引責辞任する予定だった。陛下やみんなからは何度も引き留めてもらえたが、責任は責任だ。ルエはこのままグラボーン家の別邸で暮らして良いように頼んである。元々管理人を欲しがっていたんだと。もし酷い目に遭わされるような事があったら通信魔法ですぐに連絡しろ、飛んでいく」

ギルはそれからアップルパイを食べて、お、美味いな、と一言呟いた。

「うーん、あたしはそれで良いけどさ。デーンちゃんやメイド長のフィウンナ姐さんとはもう親友になっちゃったしぃ。でも、どうして兄貴達はあんな所へ行くの?」

ルエのもっともな疑問に、ギルは突如、渋い顔になってしまった。

「借金の返済だ。もう利息が凄まじい額になっている」

衝撃のあまりにルエが椅子から転がり落ちた。

「うわあああああ――!!!!」

Cが血相を変えて、ルエの落下寸前でキャッチする。だがルエは目を白黒させて、

「あ、兄貴が借金していたの!?魔神様よりも計算高い兄貴が!?隠れて血も涙もない高利貸しをやっていそうな兄貴が!?ギャンブルやらせたらカジノの親玉を自殺させそうな兄貴が!?満面の笑顔でケツの毛までむしり取らせる兄貴が!?」

ギルは、こらと叱った。紅茶の入ったティーカップを片手に、優美と艶麗の化身のような顔をして。

「おいルエ、俺をそこまでコテンパンに言うな。あの時は本当に仕方なかったんだ」

ルエはやっと椅子に戻って、「……いやー、ごめん。ただ、正直おっかあもおっとうもあの世で死ぬほどぶったまげていると思う」

「分かった分かった。――で、C、ビグレンガに行こう。旅支度も整っている、明日の朝にデルフィンデライを出よう」

「あのさ、ギル」Cが疑わしそうな顔をする。「……お前の借金の返済、もしかして俺が手伝わされるのか?」

「半分は正解だが残り半分が不正解だな」ギルは平然と言ってのける。「多少驚く事はあるだろうが、お前が思うような酷い目には一切遭わないと約束できるぞ。いや……それどころか……地獄の果てに……この世の酒池肉林だろうと……」

「意味が分からねえよ」

「まあ、道中でおいおい話す。運が良ければ、お前の記憶喪失についての情報も得られるかも知れないからな」

Cはもそもそとアップルパイをかじって、

「……それなら、嫌だけど付いていくよ」

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