第9話 最悪、絶頂へ

魔王城の兵士が真夜中に総動員されて捜索にあたった結果、彼女は骨だけになって親の所に戻る事ができた……。


「魔王陛下の勅命で戒厳令は出した。だが勇者相手だ。どれほどの効果があるか分からない。――ギルよ!」イルガは珍しく感情をむき出しにして怒鳴った。「この責任をどう取るつもりだ!」

「落ち着け!」兄のグラガがほとんど初めて弟の宥め役に回る。今にも双斧をギルめがけて振り下ろしそうな弟を羽交い締めにして、少しだけ済まなさそうに、「……知っているだろう、コイツの嫁はグラボーン家の長女よ」

「……存じ上げております」ギルとて通常の顔ではない。今にも自刎するか勇者を殺すかと言う顔である。

「人食い一行があと2日もこの城下町に滞在するのか」内大臣ワーバーヌも真っ青な顔をしている。「かくなる上は、町民を避難させるしかあるまい!」

「馬鹿者!」と動揺している一同を一喝したのは宰相レベーナであった。数百年を生きてきたこの大悪魔の女は流石にまだ冷静だった。「移動中の町民なぞ、それこそ狼の前での無防備な羊に過ぎぬ。ギルよ、何か策はあるか」

「使い魔を全て動員させて勇者の痕跡を探っておりますが、勇者に関してはまだ何も報告が」

「違うだろ」とそこでギルの背後から声がした。つまらなそうに足の爪を切っていたCである。「使い魔が消されているんだよ。相手は勇者一行だ。使い魔に気付かねえ訳がない。俺だったら見つけ次第に消すよ。そうだろう、ギル」

「……使い魔から報告のない地点を重点的に探る、か。今だ一切の報告がないのはラウンテイージ区画だ。既に斥候部隊は派遣したが、移動はされていないだろうか?」

「俺、さっきまで双魔鬼さん達と戦闘訓練していたからさ、ちょっと疑問があるんだよ」Cは靴に足を突っ込んだ。「双魔鬼さんの、えーと、お兄さんの【スキル】についてさ」

「俺の【ドレイン】か?」グラガが不思議そうな顔をする。

「うん。耐えられる範囲の敵の攻撃を受けると、HPを8割回復するっていう」

「兄上の【ドレイン】に何ぞ文句でもあるのか!」とまだ苛立ちの治まらぬイルガに、違うんだ、と立ち上がりながらCは首を振った。

「こんな【スキル】をもしも勇者一行の誰かが持っていたら、って。……肉を食らうとその分だけ【スキル】使用の制限を回復する――もっと言ってしまえば、肉を食えば食うだけ自分も周りも回復させる、そんな【スキル】を【サブスキル】として持っていたら?」

「「!!?」」

「俺、どうも普通の人間種が勇者とかに選ばれるとは思えないんだよ。何か【隠しスキル】がある。でなきゃさー、宿敵の本拠地でこんな危険な真似はしないだろ」

「【サブスキル所持者】――案の定、【オッドアイズ】か」ギルは肯いた。それから双魔鬼に向かい、「斥候部隊の報告の前に、ご準備を願えますか」

『ほ、報告!』

無論だと双魔鬼兄弟が立ち上がった瞬間、通信魔法で連絡が来た。

『た、た、大変、大変で、あああああ』

斥候部隊が腰を抜かしている。

「どうした!?現状を詳しく報告――」とギルが席を立った瞬間。

『ちょ、長官のご自宅が、襲われました!』

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