第7話 記憶はどこへ

「さて、次は特訓だ」ギルは美味そうにピッパ鳥のもも肉を焼いて、シンプルに塩と香草で味付けした昼食のメインディッシュを食べた後、Cに話しかけた。「【刻印者】同士の戦闘も学んでおいて損は無いぞ」

「おう。――作戦は?」

ティガリア産の新鮮なオレンジ絞りたてのジュースを飲みつつ、Cは訊ねた。

「お前も勇者には情けを掛けられた、命を賭けては戦いにくいだろう。それに魔王陛下への面子もある。……徹底的に疲弊させてくれ。【スキル】を当面は使用できないくらいに、な」

「で、ヘロヘロになった所を陛下達が捕らえる。……良いな、それならやれる」

「多少は手荒くしても良いが、お前は出来ないだろうな」

「ああ、嫌だよ。マント貸してくれたからさ」

ここでCはいくばくか不審そうに首をひねった。

「あのさ、ギル。いくら前世が親友だったからって、もしかしたらこの世界の俺はギルの敵かも知れないんだぞ?記憶喪失だし。でもギルは俺のこと、ちっとも疑っていないよな。どうしてだ?」

ギルは深い、あまりにも深いため息をついた。

「前世も前々世も前々前世も、俺とお前は親友だった。対立したくても敵対したくても陥れたくても決裂したくても結局出来なかった。むしろ世界をひっくり返して親友になってしまった。お前を疑ったり嫌ったりするのは前々世で諦めたよ、俺は。……しかし、今回、お前が記憶喪失なのが気になる。何か、思い出せることは無いか?」

「……」Cは考え込む。「……戦っていた……ような気がする。負けたのか……勝ったのかは……分からない」

「ふむ。お前は天上から降ってきたそうだから、天獄から追放されたのかも知れないな」

「天獄って何?」

ギルは少し嫌そうな顔をして、

「天使族の支配階層『神』共が居住する、雲の上にある人工浮遊区画だよ」

Cは程よく空気を読まなかった。

「俺、神だったのかなあ?」

「それは今は分からない。ただ俺が確信を持って言えることは――お前は神のように他の生き物を空高くから見下ろして悦に入るような男じゃない、それくらいだ」

「え、俺、そんな男なの?」

「そうだ」

ここでギルは質素だがしっかりとした作りの黒い木机に向かった。

「いつだって、そうだ」

「ふうん」

Cが鼻を鳴らして、少し目を閉じた瞬間だった。


『絶対に反対する』

『貴様らは本物の神にでもなったつもりか』

『何が「方舟」――人類総改換計画だ!』

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