第4話 アイスクリームの誘惑

 ギルの館は平屋建ての民家だったが、正面に小さな庭があり、そこに植えられた花々がきちんと手入れされているので趣きがあった。

「ルエ、母さん、連れてきたよ」そう言ってギルがドアをノックすると勢いよく開けられて、

「お帰り、兄貴!」と黒肌のダークエルフの陽気そうな少女がぴょこぴょことお下げを揺らして姿を現した。年頃は10代初めだろうか。「そっちが通信魔法で言っていた、兄貴のお客さん?入って入って!」

「お邪魔しまーす」とアホはペコリと頭を下げた。

ダークエルフの女性が窓から夕日が差し込む一室で、ドアに背を向けて食卓にゆっくりと皿を並べていたが、ギルが、

「母さん、この人だ」と呼びかけた。

彼女の振り返った姿にアホは一瞬息を呑んだ。

目を眼帯で隠している。

違う、目を潰された痕を隠しているのだ。

「あら、こんにちは。私はイニと言います、ギルの母です。どうぞよろしくね」

「俺は名無しですけれど、よろしくお願いします!」

「ああ、ナナシさんとおっしゃるのね」

「違う違う」ギルがため息をついて、「天獄から追放された時に、記憶も消されたようだ。コイツにもこの世界での名前がある」

「あら、それは大変だったわね。でも、まずはみんなでご飯を食べましょう?ルエと一緒に作ったの、アイスクリームもあるのよ」

アホは目を少年のような輝きにあふれさせて、

「アイスクリーム!」

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