靴(狂)愛好家

緋色 刹那

靴(狂)愛好家

 彼女が履いている靴が好きだった。

 赤いエナメルの靴も、黒い細身のブーツも、フリルがついた可愛らしい靴も、おろし立てのスニーカーも。

 彼女が履いている靴が好きすぎて、次第に彼女の顔を見ることがなくなった。

 彼女が僕の部屋に入ると、挨拶もそこそこに僕は玄関でしゃがみ、彼女が履いている靴を眺める。あんまり靴ばかりみていると怒られるので、たまに彼女の顔を見る。

 彼女が靴を脱ぎ、僕の部屋で食事をしたり映画を見ている間も、彼女がトイレに立つたびに玄関へ走り、靴を眺めた。


 そんな日々を繰り返していれば、自ずとバチは当たる。

 ある日いつものように彼女が来るのを玄関に座って待っていると、彼女はインターホンを押すこともなく、玄関のドアを突然乱暴に開けた。

 そして僕が立ち上がるよりも先に、かかとのヒールで僕の右目を突いた。

 僕が右目を押さえて悲鳴をあげると、彼女は怒りに震えながら言い放った。

「どう? こうすれば靴なんて見えなくなるでしょ? 靴ばかり見てるあんたが悪いんだからね」

 僕の左目が最後に見たのは、先が針のように尖った、美しいヒールの靴だった。元は真っ白だったであろう靴は、僕の血で真っ赤に染まっていた。その血がまた、彼女の靴の美しさを引き立たせていた。

 あまりの美しさに、僕は目を逸らすことができず、左目の光も失われた。


 後日彼女は逮捕され、僕は両目とも義眼になった。

 彼女は僕の目さえ潰してしまえば、僕が靴への興味を無くすと考えていたようだけど、その目論見は甘かった。

 僕は靴のデザインも好きだけど、靴を手で触った質感も、靴が地面を歩く音も、新品の靴の臭いや味も好きなんだ。

 この目で靴が見えなくなったくらい、どうってことない。失明したことで、僕の靴への愛は無くなるどころか、以前にも増して強くなった。

 僕はコツコツ貯めていた彼女の靴のコレクションに埋もれながら、幸せを噛み締めた。


(終わり)

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靴(狂)愛好家 緋色 刹那 @kodiacbear

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