真面目人間だった僕が、芸人になった理由。

緋色 刹那

真面目人間だった僕が、芸人になった理由。

 僕とギャグは切っても切れない間柄にある。どんな状況においても笑いを欲し、周囲の人々を笑わせることに生き甲斐を感じるからだ。

 時には、ふざけてはいけない場所でおどけてしまい、顰蹙をかったことだってある。

 僕だって最初からこんな人間だったわけじゃない。むしろ、真面目な人間だった。

 毎日真面目に会社に通い、コツコツ働き、趣味の1つもなく、真っ直ぐ家に帰っていた。冗談と本気の違いも分からない、つまらないヤツだった。


「貴方と一緒にいても面白くない。私はもっと笑いが絶えない家庭が欲しい」


 5年前、エリコはそう離婚を切り出した。

 当時の僕は自分の何処に落ち度があるのか分からなかった。

 何度も食い下がり、それでも首を縦に振らない妻を見て、諦めた。


 会社から帰る道中、通り沿いの家から聞こえてきた笑い声を耳にし、「羨ましい」と思った。

 家に帰っても部屋には何の声も聞こえない。唯一喋っていた妻も今はいない。

 静寂に耐えられず、つけたテレビに映っていたのが、今の僕の職業である芸人だった。

 軽快なトークと部屋を包み込む笑いが、冷たかった部屋を温かくした。

今まで理解できなかった笑いの価値が、その時分かった。


 こうして僕は芸人になった。

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真面目人間だった僕が、芸人になった理由。 緋色 刹那 @kodiacbear

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