後日談-3 ファミリーの勝利
◆
私、勇敢なるウサギ、大石里依紗は、都成くんからピースを強奪し、大勢の追跡者を連れて、逃げ続けた。
前方にケージが見えてくる。
でももう追いつかれそうだ。
間に合うか?
その時、ケージの中から二人のシーカーが出てきた。どちらもウサギだ。つまり、サナトリウムの仲間だ。
反射的に手元にあるピースを投げた。
ほとんど同時に、私は明日羅の双子のシーカーに組みつかれ、転倒している。
視線の先、宙を飛んだピースが、きっちりと仲間のシーカーの腕の中に入った。
彼らが慌てて出てきたばかりのケージに入る。
やれやれ、どうやら、勝ったらしい。
組み伏せられたままの私をよそに、周囲に押しかけたシーカーたちが息を吐く音が、幾重にも重なる。
「狙っていたわけ?」
私を解放した双子の猫のシーカーの片方が訊ねてくる。私を肩をすくめる。
「こんな連携、聞いたこと、ある?」
「ないわね」もう双子のもう一方が応じる。「偶然にしちゃ、出来すぎているけど」
「そういう日もあるのよ」
私はやっと立ち上がり、すでに散り始めたシーカーたちの中から進み出る都成くんと美澄を見た。
「凄い展開だったな」
感嘆を隠そうともせず、そういう都成くんに「偶然よ」と応じる。
「ともかく、いい戦いだったわ。ほら、行くわよ」
悔しさからだろう、強い口調で美澄が促し、都成くんは少し不思議そうな顔で、離れていった。
私も地上へ降り、ケージに入る。
六人の仲間が勢ぞろいしていた。そのうちの二人、さっき出てきて、ピースをケージに入れる役割を果たした二人が、こちらにやってくる。
「大石さん、すごかった、びっくりした。本当に驚いた」
どうやらまだ興奮しているか、混乱しているらしい。
「これは」もう一人が少し冷静に言った。「さっき、話し合ったんだけど、ちょっとはビッグゲームに参加しようと思う」
私は思わず目を見開いていた。
参加する? 彼らが?
「それでちょっと外の様子を見よう、ってことになって、二人が出たところで、さっきの事態になったんだ。本当、こんな偶然、あるんだな」
それからまだ興奮気味の彼をなだめつつ、私たちは野性解放時間が終わり、ケージが消えるまで、そこで話し合った。
結論としては、訓練から始める、ということになった。
翌日のビッグゲームから、私は初心者の六人を鍛え始めた。
野性解放時間の良いところは、どれだけ転んだり落ちたりしても、ダメージを負わない。そしてどれだけ激しく運動しても息が乱れたり、疲労したりしない。
ピースをそっちのけで、私たちは基礎的な動きから確認し、春日駅前をまるで体力作りか何かのように、ぐるぐると走り回り、飛び跳ね、体の使い方を覚えていった。
六人のうちの二人は、ちょっと目があるかな、と私は思い始めた。
どちらもそれほど運動が得意そうには見えないが、細身で、機敏だ。
感覚も鋭敏で、平衡感覚にも優れている。
シーカーは高く跳んだり、不規則な足場を次々と蹴って走る関係で、強化されているとはいえ基礎的な平衡感覚は重要だ。
三日ほどの訓練で、その二人を、私の直接のサポート役にすることに決めて、連携の訓練を始めた。
「どこかで見たようなことをやっているわね」
訓練の途中で、ふらっと美澄がやってきた。
「どこで私たちを監視しているわけ?」
秘密、という返事だった。
私は彼女には構わず、訓練を続けた。都成くんがいないのは、彼が今日は一人でピースを狙っているんだろう。猛虎はまた姿を消していた。
美澄は何かのタイミングで、「じゃあね」と手を振って去っていた。本当に見物に来ただけらしい。
サナトリウムの面々がビッグゲームへの参加を決めて十日後のビッグゲームで、私は例の二人と三人で、ピースを獲得する争奪戦に加わってみた。
私はどちらかといえば不意打ちで獲物を狙っていたけど、それは一人だからだ。
今は三人いる。正面からぶつかる気にになった。
結果から言えば、惨敗だった。
私はともかく、他の二人はハウンドに蹴散らされ、インターセプトにも蹴散らされる有様だった。
混戦の輪の一番外で、手を伸ばしたり割り込もうとしても、すぐに弾き出されるだけ。
ピースが遠く離れてしまい、私は二人を止めた。
「ま、初陣はこんなものでしょうね」
そう評価すると、二人のウサギのシーカーは意気消沈している。
帰り道に戦い方について私がレクチャーしても、二人はどこか落ち込んでいるまま。
これはどうにかして、ピースを獲得しないとまずいかもね。
私も、彼らを正面からぶつけたのは、失敗だったかもしれない、と反省した。
ちょっとは卑怯でも、まずは成果、結果が大事だ。
その翌日、私たちはひっそりと身を潜め、ピースの位置を伺い、争奪戦にも参加せずにいた。
今日はインターセプトがピースを確保している。
三人がひっそりと移動し、頭に叩き込んであるインターセプトのケージまで先回りした。
ピースが近づいてくる。
「行くわよ」
私たち三人は、同時に飛び出していった。
背後ばかり気にしていた猫のシーカー三人が、私たちに気づき、驚きを隠せない表情で、それでも回避運動を取り始める。
数の上では互角。
私がピースを持っているシーカーに当たっても良かった。
でもそれは仲間に任せた。
私が主役じゃなきゃいけない理由はない。
勇敢なるウサギも、ファミリーの一員で、ファミリーが勝利することは、自分の勝利と同じだから。
私が一人のシーカーを弾き飛ばした時、猫のシーカー二人と、ウサギのシーカー二人がもみ合って、離れる。ピースが転がり、四人が飛びつく。
頑張れ。
そんな言葉が、頭の中に浮かんでいた。
頑張れ!
ピースがウサギのシーカーの手の中にすっぽりと入った。
(後日談-3 了)
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