3-3 最後に残されるという重荷
◆
その日もビッグゲームが始まり、四人で高速で疾走し、ケージを目指していた。
「今日こそちゃんとピースを手に入れなくちゃね」
朝ちゃんが発破をかけるように言う。
「当たり前じゃない、朝。私たちには目的がある」
夕ちゃんがすぐに応じる。
「でもそれって」
思わず私は声に出していた。
「いつになるのかな」
ピタッと双子が同時に足を止めたので、少し先に進んでから、私も足を止めた。風子姉さんも足を止めている。
「おい、嵐、お前、やる気がないのか?」
つかつかと朝ちゃんが歩み寄ってきて、私の襟首を掴んだ。夕ちゃんも強烈な眼光でこちらを見ている。
吊り上げられるようになっている私を、下から朝ちゃんが見上げる。
「私たちはピースを集めて、母さんを生き返らせる。そのためのビッグゲームだ」
「だから」
私は反論していた。珍しいことだけど。
「三百個は、いつ貯まるの?」
ぎりっと朝ちゃんが歯を噛みしめる。
「姉さんはあと一年だ。私たちはあと三年。でもお前には五年ある。最後には嵐、お前がピースを集めて、願望を成就させるんだ」
「私は……」
いつになく反抗的な気持ちが湧き起こり、強い口調で返した。
「私は、お母さんを生き返らせるべきではない、と思う」
「なんだって?」
勢いよく朝ちゃんが私を放り出し、蹴りつけてくる。
「やめなさい!」
風子姉さんが間に立つが、朝ちゃんは攻撃的な気配を隠そうともしない。その朝ちゃんに、そっくりの様子で、夕ちゃんが並び立つ。
「私たちの目的を忘れたわけじゃないよな、姉ちゃん」
「私たちは母さんを生き返らせるために、やってきた。そうだろ?」
風子姉さんが、それはあなたたちの目的、と応じる。朝ちゃんと夕ちゃんから冷気が放射される。
「姉ちゃんは、諦めたのか?」
「諦めてはいない。でも、絶対ではない。私たちなりの楽しみ方を選ぶ、というのが正しいと私は思うわ」
「つまり、明日羅は解散ってこと?」
「いいえ。私はあなたたちに手を貸すよ。あなたたちは私の妹で、家族だから」
少しだけ朝ちゃんと夕ちゃんの気配が、和らぐ。私は少し安堵したけど、二人はまだこちらを睨みつけている。
「嵐は、私たちと同じ道を進まないのか?」
朝ちゃんの言葉に、私はどう答えることもできなかった。
「結論は先でいいじゃない、二人とも。さあ、早くケージに入って、ピースを手に入れましょう」
風子姉さんに促されて、渋々といった様子の双子が走り出し、私は風子姉さんに手を貸されて立ち上がると彼女たちを追った。
ケージに辿り着くと、すでに都成さんが待機していた。
「遅いじゃないですか」
すでに双子はケージを抜けて、動き出している。ケージを抜けた私と風子姉さんに、都成さんがそんな声をかけてきた。彼の肩をポンと姉さんが叩く。
「あなたに協力してもらえると助かるわ」
「それって明日羅に正式に入れてくれる、ってことですか?」
「それは別の話。勉強、訓練だと思って、私たちと少し組みなさい」
実際、私たちは都成さんを仲間にしてないので、彼は自分のケージを抜けてからここへ来ている。彼が明日羅に入れば、今、私のすぐ横にあるケージを抜ければ、彼はビッグゲームに参加できるから、それなら時間は無駄にならない。
ただ、私は薄々考えていたことが、はっきりと立ち上がるのを感じた。
明日羅に都成さんを加入させれば、ケージの中にある九十個を超えるピースを、彼にも見られてしまう。それだけのピースがあり、全部を能力の拡張に使えば、その対象のシーカーは圧倒的な能力を手に入れるはずだ。
もしかして、そういう可能性を排除するために、今まで明日羅は家族以外を受け入れていないのか?
それが悪いことだとは思わないし、むしろ正しいやり方かもしれない。
全ての責任は最終的には、私に収束するのが、どこか重荷のように感じるだけだ。
朝ちゃんがさっき言った通り、風子姉さんはもう十九歳になろうとしていて、ビッグゲームの資格を失う日が近い。双子の姉さんも、あと三年ほどだ。
三年が過ぎた時、明日羅の目的、双子の目的である母さんの復活は、唯一残される私一人で達成するしかない。
三年先のことなんてわからないけど、私はどんな道を選ぶだろう。
ビッグゲームに参加する資格を失えば、その瞬間に記憶が改ざんされるのは、シーカーの間では常識だ。
でもどれくらい、変わるのだろう?
もし資格を失った後の双子が、母さんの存在を求めているとなったら、私はその時まで積み重ねられてきた二人の願望と、その成就のための努力を、放棄して、投げ出せるだろうか。
そこに私の情熱は、果たしてあるんだろうか。
「大丈夫? 嵐」
風子姉さんの声に、私は我に返った。
うん、と小さな声で応じると、気合を入れて、と風子姉さんは笑いかけてくれる。
その夜も私たちはいつも通りの作戦で、ピースを一つ手に入れた。どうにかこうにかケージに運び込む。
風子姉さんと双子がケージの中で何か話し合っているのをよそに、私は外へ出た。ピースを集めることに、どこか怖いものを感じてもいた。
ケージの外では、中に入れない都成さんが待っている。
「少しずつ動きが良くなってますね」
思わずそう言っていた。
事実、都成勝利というシーカーは、私が見ている前で、徐々に身体能力を高め、限界を更新しているように見えた。
彼はピースによる能力強化を受けていないから、純粋に力が付いていることになる。
ステップなのだろうか。
こちらを不思議そうに見てから、都成さんは小さく笑った。
「明日羅の四人に比べたら、形無しだよ」
「経験値が違いますからね」
そう答えた時、遠くで鐘が鳴り始めた。
終わりの鐘だ。
(続く)
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